表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

99/101

--    ④神殿崩壊 ― 英雄の意思の断片


 ――“音”が消えた。


 封印の核に触れたハルヒの指先から広がった光は、まるで神殿全体の鼓動を止めたかのように、あたり一面の空気を吸い込んでいく。

 白金の床は静かに震え、壁の紋様が淡く明滅する。


「……っ、ハルヒ、下がって!」


 セリナが叫んだ瞬間――。


 崩落が始まった。


 天井の光壁が砕け、硬質な破片が粉雪のように降り注ぐ。

 しかしそれは光でできた“偽の破片”で、触れた瞬間ふわりと消える。

 だが音は本物だ。床が割れ、柱が軋み、白金の神殿は長い眠りから目覚めるように形そのものを崩し始めていた。


「やっぱり……封印の維持機能が崩れたんだわ!」

「うそだろ、全部沈むのかよ――!」


 騎士候補生たちの焦りが広間に響く。


 ハルヒは胸元を押さえた。

 まだ残っている、“声”の残滓。


 《……選んで、くれ……》


 その余韻が、神殿のきしみとともに胸に刺さる。


   湖へ続く”光の路”


「出口へ走る! みんな、下がって!」

 セリナが魔導書アルケイン・アーカイブを前へかざし、詠唱を紡ぐ。


 光が織り上がり――

 床のひび割れを覆うように白い橋が出現した。


「“光導の縁”! 走って!」


 崩壊する神殿の中を、光の路が外へ向けて伸びていく。

 床下では水の音が響き、巨大な空洞が空いていくのがわかる。


「ハルヒ、早く!」

「わかった!」


 2人と騎士候補生たちは駆けだした。

 光の橋は不思議な浮遊感があり、踏み出すたびに微弱な魔力の波が足元へ広がる。


 背後では、神殿の柱が倒れ、壁が崩れ、湖へと雪崩れ込んでいく。


「もう振り返るなーっ! 見たら足が止まる!」

「でも……すごい……」


 ハルヒは一瞬だけ振り返った。


 白金の神殿は、光の塵を撒き散らしながら沈んでいく。

 それは崩壊なのに――どこか、祈りにも似た静けさがあった。


  湖畔 ― 静寂のあとに


 外へ飛び出し、湖畔に着地した瞬間――

 神殿は大きな音もなく、ただ静かに沈んだ。


 まるで最初から湖の底に帰るべき場所を思い出したかのように。


 2人と騎士候補生たちは肩で息をしながら、その光景を見つめた。


「助かった……の、かな……」

「封印が“次へ進め”って言ってるんだと思う」


 セリナが魔導書を抱えたまま、沈んだ神殿の中心へ目を向ける。


 ――そのときだった。


「……あれ……?」


 湖面から、細い光の粒が浮き上がり、ゆっくり形をととのえていく。


 それは――


  1羽の“光の小鳥”。


 翼は光の線で形どられ、身体はふわりと揺れる光片の集合。

 しかし“意思”を持つような眼差しで、2人を見つめた。


「精霊……? いや違う、これは――」

「次の封印へ導くための“残された意思”だよ」


 ハルヒがつぶやくと、光の小鳥は小さく旋回し、

 やがて東の空へ向かって飛んでいった。


 風が吹く。

 森の香り。


「……あっち、“風歌の森”の方向だ」

 騎士候補生が息を飲む。


「次の封印は森にあるってこと……?」

「うん。セリア=ノアールさんが、導いてくれてる」


 ハルヒは胸に触れた。

 封印核の余韻がまだほんのりと温かい。


 《……選んで……くれ……》


 ――あの声の続きが、まだ胸の奥に残っていた。



 湖畔に立つ2人の影は、沈む光を背に、ゆっくりと森の方向へ向き直る。


 神殿は沈んだ。

 だが物語は沈まない。


 むしろ――


 ここからが、“六英雄”の真実へ至る道の始まりだった。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ