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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--    ②光壁の回廊と試練の残滓


  光殿の入口が閉じた瞬間、

 世界の音が一段階、遠ざかった。


 水音も、風の揺れすらも薄れ――

 代わりに回廊全体を満たす“規則的な脈動”だけが耳に残る。


 光の脈動。

 それは、この神殿そのものの心臓の鼓動のようだった。


 ハルヒは喉の奥の乾きをごまかすように息を飲んだ。


「……ここから先、空気が違う」


セリナも頷く。


「うん。封印の“外側”はもう越えてる。

 この先は……セリア・ノアールが残した“試練の残滓”」


 訓練生や騎士候補生たちも武器を構え、緊張に喉を鳴らす。


 

  光壁の回廊 ― 過去の記録が息づく空間


 進むにつれ、両側の光壁はより透明度を増し、

 やがて内部に“映像の層”が浮かび上がり始めた。


 光壁には――

 六英雄が戦う姿、聖光が溢れる戦場、

 王女セリアが光装弓を掲げる瞬間など、


 時の記録が幾重にも重なって流れ続けていた。


 だが、その映像には明らかな異常があった。


「……コマ飛び?」

 ハルヒがつぶやく。


 映像の一部が欠け、

 英雄たちの顔が一瞬だけ抜け落ちたり、

 背景が塗りつぶされたように曇ったりする。


 セリナが眉を寄せる。


「クロノ=シーアの干渉だ……

 時系列の“再編集”。

 記録の層が歪んでる」


「どうしてそんなことを?」


「まだ……わからない」


 

  試練の残滓 ― 光の守護兵


 そのときだった。


 キィィィィィ……


 光壁全体が震えるような音を立て、

 地面に光の影が落ちた。


 影は、やがて人の形を取る。


 騎士の兜。

 光の刃。

 盾。


 ――実体を持たない、過去の“守護兵の残像”。


 セリナが反射的に叫ぶ。


「来るよッ!!」


 残像なのに、動きはあまりにも滑らかだった。

 光の刃が振るわれるたび、空気が焼けるような切 れ目を生む。


 前衛の騎士候補生が受け止めるが、


「――っ!? 通り抜けるのに、衝撃だけくる……!」


 実体がないはずなのに、

 身体と精神だけが殴られる。


「これ……どうすれば……!」 


  セリナが読み解く「光の呪式」


 セリナが魔導書を開き、光壁へ手をかざす。


「光壁基盤の呪式……解析開始!」


 頁が高速で舞い、光文字が空中に浮かぶ。


「この殿堂……セリア・ノアールの“天光結界”を基礎にしてる。

 でも、その一部に上書きの跡がある……

 多分、クロノ=シーアが“試練の残滓”を残すために」


「つまり敵は……ここに刻まれた“記憶そのもの”か」


「うん。

 だから普通の攻撃じゃ倒せない」


 残像の守護兵がさらに迫る。

 光刃が空中を交差し、回廊全体が閃光に染まる。


 ハルヒ ― 時の刻印で“記憶を上書きする”


(触れれば、消せる……)


考えるより先に身体が走っていた。


 光刃が迫る。

 ハルヒは手のひらをその軌跡へ向ける。


 ――ドクン。


 胸の奥で、時の刻印が脈動した。


「――《相殺キャンセル》!」


 触れた瞬間、

 光の守護兵は音もなく散り、

 霧のように溶けて消えた。


 セリナが絶句する。


「……残像の記憶データが……上書きされた……?

 時の刻印の位相が、この神殿の魔力層より“上”……?」


 ハルヒは短く息を吐いた。


「理屈はわからないけど……

 俺の刻印は、ここの“記録”と相性がいいみたいだ」


「相性ってレベルじゃないよ……

 記録そのものを無効化できるなんて……!」


 だが、残像は次々と形を取り始める。


 三体、五体、七体――


 回廊全体が光戦場のように染まる。


 

 進むべき“封印の間”が開かれる


(全部消して進むしかない)


 ハルヒは残像に手を伸ばし続けた。


 触れれば音もなく消える――

 その動きを繰り返していくうちに、


 回廊の奥で、

 光が収束し、巨大な扉が姿を現した。


 扉には、白銀の紋章。


 “光装弓セレスティア――セリア・ノアール”


「……第一の封印だ……!」


 セリナが息を呑む。


「この扉の先に……

 セリア・ノアールが残した“忠誠の紋章”がある」


 ハルヒは手を伸ばし、扉に触れた。


       冷たく――

しかしどこか懐かしいような光が、掌を包み込む。


 その瞬間。


 ――“未来の揺らぎよ、まだ早い。”


 胸の奥で聞こえた声。


 クロノ=シーアだ。


(……行くしかない)


 扉が静かに開き、

 光の奔流が一行を包む。




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