--閑話 遺跡調査までの3日間-英雄伝承と時詠みの影
帰還から二日。
世界は表面上、何ごともなかったかのように動いている――しかし、ハルヒの胸の底には、説明できない“軋み”が残っていた。
世界が正常に戻ったのではない。
何者かの意図で“均衡を保たされている”だけだ。
そう思えてならなかった。
◆一日目:調達と静かなざわめき
学院の受付前は、いつもより冒険者と訓練生で溢れていた。
魔物が増えたという噂が、すでに街を駆け巡っているのだ。
「ハルヒ、これ。探索許可証、取ってきたよ!」
セリナが息を弾ませて走り寄ってくる。
「食料三日分、魔力灯、簡易バリア布。あ、それと……また時空対策のタグね」
「またって言わないで!? そんな頻繁に落ちてるわけじゃ……」
「二回も落ちれば十分だと思うんだけど?」
「ぐぬぬ……」
笑うセリナに、ハルヒは思わず肩をすくめた。
しかし――その笑顔には、微かな安堵が宿っている。
“今度こそ、置いていかないでね”
そんな想いが、伝わるように。
◆二日目:古文書の最深域 ― 六人の英雄の真伝承
学院図書塔の最下層。
普段は鍵がかけられている禁書区画に、学院長の承認で入ることができた。
そこには、英雄時代の文献が山のように眠っていた。
◆《剣聖 レオン・ヴァルグレア》
神器:雷神剣アルカディア(指輪が変化)
・光を帯びて雷刃化
・雷斬で敵群を制圧
・剣聖技と同期し、戦意に応じて出力上昇
・敵全体の行動速度を低下
「……速度低下って、これ戦争レベルの脅威だよな」
「うん。レオンは“前線の神速”って呼ばれた人だからね」
◆《聖女 ミリア・ルゼリア》
神器:聖光の黎明
・黄金のステッキ+光翼のオーラ
・回復・浄化・防御魔法を強化
・味方全体を短時間無敵化する“光翼の祝福”
・絶望の戦場で士気を底上げ
「無敵化……まさに生きる希望だね」
「戦場に立つだけで皆が泣いたって記録があるよ」
◆《風と歌の精霊使い リィナ・ヴェルセリア》
神器:精霊歌の羽冠スピリット・コロナ
・風精霊の常時召喚
・歌うだけで魔法陣展開
・自律防御・自動反撃
・味方の移動・攻撃速度上昇
・“精霊女王の証”と呼ばれる
セリナがその頁に触れた瞬間、僅かに風が舞った気がした。
「この人……歌うだけで戦場が変わるとか反則では?」
「精霊は感情で動くからね……彼女は愛されたんだと思う」
◆《獣人重戦士 ガルド・ベルム》
神器:戦斧グラヴォルテス(ガントレット一体型)
・振るだけで衝撃波
・広範囲破壊
・“獣王激震”で敵を薙ぎ払う
・両腕のガントレットで防御と攻撃を同時処理
「……これ、建物残らないタイプの人?」
「当時の城壁が3枚消し飛んだって書いてる」
「こわい!」
◆《元第一王女 セリア・ノアール》
神器:光装弓セレスティア
・光属性の攻撃増幅
・“天光結界”で味方の防御・再生力を上げる
・存在するだけで士気上昇
・王家の象徴の白銀弓
「王女で戦場に出るとか……すごいな」
「『最後の矢まで民を守る』って有名な言葉があるよ」
◆《策士 ユグノア・オルディス》
神器:影眼の盤ノクターナル・アイズ
・敵の行動・位置を予測
・罠設置
・幻惑・隠密行動補助
・敵アビリティ封印
・味方の行動最適化
戦場の“頭脳”と恐れられた存在。
ハルヒはそのページを読みながら、少し背筋が寒くなる。
「……これ、現代の戦術AIみたいだな」
「ユグノアは“歩く予測魔導機”って言われてたからね」
◆六人と共にいた影 ―
《時詠みのクロノ=シーア》
最後のページに、その名はあった。
六英雄と同時代に存在した、もう一人の特異点――
《時詠み(ときよみ)》のクロノ=シーア
・額に“時の紋章”を持つ
・未来予測・時の揺らぎの感知
・一族の最後の生き残り
・“封印の起点”を定めた人物
・英雄六人を「世界の均衡の柱」と呼んだ
書物の端には、こう記されていた。
――『柱が折れれば、世界が沈む。
ゆえに六つの封印は起動せし者に従う』
「起動……? 誰が、何のために?」
「わからない。でも……ハルヒが来たことと、関係してる気がする」
セリナはハルヒの胸元――時魔法に反応する紋章へ目を向けた。
「だって、クロノ=シーアは未来からの来訪者を“導く”って伝承があるの」
「未来……って俺のこと?」
「多分ね。あなたは“来訪者”だもの」
◆三日目:装備最終調整 ― そして、揺らぐ夜空
工房で装備確認をしていた夜。
学院の窓の外で――世界が一瞬、軋んだ。
光の薄膜が波紋のように震え、空が歪む。
「……また、時空の揺れ?」
「違う。これは――封印側が悲鳴をあげてる」
ハルヒは確信する。
六つの封印は維持されている。
だが、その均衡は壊れかけていた。
(クロノ=シーア……あんたは何を見ていたんだ?)
◆出発 ― 湖畔の光殿へ
三日間の準備を終え、ハルヒたちは学院前に集った。
セリナ、訓練生、騎士部隊。
そして――遺跡から聞こえた“声”が、確かに囁いた。
――『光の勇士は、湖に沈む。』
「最初の封印。**湖畔の光殿**へ向かうよ」
「うん。今度は絶対に一緒に帰ってくるから」
セリナが微笑む。
ハルヒは頷き、歩き出した。
ここから始まるのは、
六つの封印と、英雄たちの真実へ至る旅路。




