--第87話 英雄封印の手掛かり-六つの影
レガリア第2遺跡から戻って間もなく、学院全体は重たいざわめきに包まれていた。
遺跡奥での奇妙な反応――
古代石柱の光――
そして、ハルヒが聞いたという“英雄の声”。
信じる者と疑う者が入り混じる中、ハルヒの胸だけは静かに燃えていた。
(レオンたちが……生きている。
いや、“封印されている”んだ。
俺が助けに行かなきゃ)
同じ空の下、どこか別の場所で、仲間たちが時の牢の中にいる。
それは現実味を帯びながらも、信じがたい事実だった。
学院会議室の緊張
「レガリア第2遺跡での魔力反応は過去最大……。封印系魔術の痕跡も確認されている」
教官の報告に、学院長ラウルが眉を寄せた。
白髪混じりのローブ姿は威厳にあふれているが、その瞳には疲労の色が濃い。
「……しかし、英雄伝説に登場する“六人の紋章”が、遺跡に刻まれていたというのはにわかに信じがたい。
アークライト訓練生、お前たちは見たのだな?」
「はい。確かに六つの紋章が……」
セリナは報告をしながら、ときおりハルヒを横目で見る。
彼女はまだ、ハルヒが英雄たちの名を“当然のように知っていた”ことに引っかかっているようだった。
一方でハルヒは、胸の刻印が微かに痛むのを感じていた。
(嘘はつきたくない。だが、全部話せば……)
千年前の世界、英雄たちとの戦いの記憶。
それを告げれば、混乱はさらに広がるだろう。
学院長がハルヒに目を向けた。
「ハルヒ。お前はどう見た?」
その問いは避けられないものだった。
――だが、言うべきことは決まっていた。
「……遺跡は、何かを“封じている”と感じました。
魔物が増えている原因も……そこに繋がっている気がします」
「ふむ……」
学院長はしばらく黙考し、やがてゆっくりと頷いた。
「よい。調査班を正式に増員し、各地の遺跡を再調査する。
王都周辺で魔物が増えているのは確かだ。原因究明は急務だろう」
その言葉に、会議室の空気はぐっと引き締まった。
孤独な真実と、ひとりの理解者
会議室を出た瞬間、セリナがハルヒの袖をつかんだ。
「ハルヒ……。少し、いい?」
人気の少ない中庭に移動すると、セリナは迷いながら口を開いた。
「あなた……遺跡の石柱を見たとき、迷いなく名前を呼んだよね。
“レオン”って」
「……」
「どうして?
英雄の名前なんて、伝承の一部しか残ってないのに。
あなた、まるで……“会ったことがある”みたいな……」
鋭い問いだった。
だが、怒りではなく、不安と心配がその眼差しに宿っている。
(……話すべきか?
でも、セリナなら)
ハルヒは、ほんの少しだけ覚悟を決めた。
「……全部じゃないけど、一つだけ言うよ。
俺は……レオンたちを知ってる。彼らは……俺の、大切な仲間だった」
「……ッ!」
セリナの瞳が揺れる。
ハルヒは歩み寄るように言葉を続けた。
「だから、必ず助けたい。
封印されているなら、見つけて解きたい。
それが……俺の帰ってきた理由だと思うんだ」
沈黙。
今にも泣き出しそうな表情。
だが――
「……わかった。信じるよ」
セリナはそう言って、真っ直ぐハルヒを見た。
震えながら、でも迷わずに。
「だって……帰ってきたあなたが嘘をつく理由なんて、ないでしょ。
信じられるまで時間はかかるかもしれないけど……
私は、あなたの味方だよ」
胸の奥がじんわりと熱くなる。
「ありがとう、セリナ」
六人の封印の“影”
その夜。
学院の研究室から、新たな報告が届いた。
「王国各地の遺跡から、同じ反応が六ヶ所……?」
ハルヒは息を呑んだ。
王都周辺を中心に、六つの遺跡から“封印反応”が同期しているという。
一つ目――レガリア第2遺跡
二つ目――湖畔の光殿遺跡
三つ目――深緑の樹海地下構造
四つ目――北壁山脈の洞窟神殿
五つ目――旧戦線跡の地下墓域
六つ目――王都中心部、地下に眠る“未調査領域”
「これって……」
セリナがつぶやく。
「まるで……六人の英雄が、そのまま“六つの封印”として点在しているみたい」
「……」
ハルヒは言葉を失った。
胸の刻印が熱く光る。
千年前の仲間たちの気配が、確かにそこにある。
六つの古代遺跡――
六つの封印反応――
六人の英雄。
繋がりすぎている。
偶然ではあり得ない。
(レオンたち……みんな……生きてる。
封印という形で、この時代のどこかに)
拳を握りしめた。
未来を変えるための“第一歩”
翌朝。
学院の訓練場に集合がかかり、調査隊編成が告げられた。
「レガリア第2遺跡は、昨日の班が再調査する。
他の五つも今日から順次、学生の補助が入る」
教官の声にざわめきが起きる。
その中で、セリナがハルヒに囁く。
「行くんでしょ、ハルヒ。
あなたが一緒じゃなきゃ、この調査、きっと意味がない」
「……うん。行くよ。
俺が六人を見つけるんだ」
決意は揺るがなかった。
帰還した理由はただ一つ。
仲間たちを救うために。
千年前の戦いはまだ終わっていない。
その続きを、この時代で果たす。
「六人の英雄の封印を解く旅……。
ここからが、本当の始まりだ」
ハルヒは刻印の輝きを胸に、最初の目的地――
“湖畔の光殿遺跡” へ向かう準備を整えた。
世界は静かに、しかし確実に、動き出していた。




