表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

92/102

--第85話 帰還


――間に合わない。


 それは、ハルヒが“未来へ引き戻される”瞬間まで確信できなかった事実だった。


眼前で崩れつつある魔王アルディエルの身体。

黒い外套は裂け、核である“時核ときかく”が露わになり、

その輝きは確かに弱っている。


六人の英雄――

レオン、ミリア、ガルド、リィナ、ユグノア、セリア。

彼らは全身血まみれになりながら、最後の一撃を叩き込む準備をしていた。


「アルディエル……!

ここで終わらせるッ!!」


レオンの声が時海に響く。

それは、レガリア戦争に幕を引く叫びのはずだった。


だが、その瞬間、ハルヒの胸元で赤い光が脈動した。


(……うそだろ……こんな時に……!?)


 時の刻印が、限界を超えて崩壊し始めている。

ハルヒをこの時代に縛りつけていた

“時空の鎖”がほどけ、

逆に元の未来へ引き戻す力へと転じていく。


「ハルヒ! 待て! 戻るな!」

ガルドが咆哮する。


「まだ……終わって……ないのよ……!」

ミリアが震える声で伸ばした手は、光に掠れて消えていく。


「最後の……最後まで……一緒に戦いたかったのに……」

リィナの歌の魔力が掠れ始める。


仲間たちの声——次第に遠くなる。


地面に膝をつくアルディエルは、もはや立つ力すら残っていなかった。

だが、彼の金色の瞳だけは、ハルヒを見据えていた。


「……お前は最後まで……私の死を“見届けられぬ”」


その声音には怨嗟も怒りもなかった。

ただ静かに、運命を語る者の声。


「時は円環。

私が滅びる瞬間を知らぬ者が、

“未来へ帰る”運命だったのだ」


「黙れ……ッ!!」


 ハルヒは血を吐くように叫ぶ。


「俺は……最後まで戦うつもりだった……!!

みんなと……一緒に……!!」


「だが、その手は届かぬ。

刻印が、お前を“未来へ戻す意志”を選んだのだ。

 お前が歩むのは……この戦いの“後の時代”。

それを恐れず、生きよ」


 視界が白く染まる。

 世界が崩れ落ちる。


「まだ……終われないんだよ……!

俺は……! みんなの未来を——ッ!」


「終わりではない。

“帰還”は、新たな時間の始まりだ」


アルディエルの声は、最後まで静かだった。


そして——


 ハルヒの意識は、強烈に引きちぎられるように、

“千年後(現代)へと戻されていった”。



千年後(時空転移から3年後)の世界


――何かが違う。


目を開けた瞬間、ハルヒは違和感を全身で感じ取った。


石畳の感触は確かに“未来”のもの。

見上げれば、かつて通学路として眺めていた学院区の塔も見える。


だが。


「……街が、少し……暗い?」


街灯は以前より魔力光が弱く、

街路にはほんの薄い黒い霧が漂っている。

人の姿は少なく、皆どこか急ぎ足で、怯えた目をしていた。


(魔王を……倒しきれなかった影響か……?

それとも千年前での戦いが、未来そのものを微妙に歪めた……?)


胸の刻印が鈍く疼く。

千年前で戦った痕跡――その残響が未来へ侵食している。


そんな時だった。


「おい、訓練生! 魔物が学院区に出たぞ!」


叫び声に、ハルヒは眉をひそめた。


(魔物……? 見慣れたやつ……?

いや、数が少し増えてる……)


通りの向こう、ゴブリンやオークの小群が

学院門に向かって進む姿が見える。

以前より少しだけ警戒が必要になっただけの世界。




騎士学校の変貌


ハルヒはまず、かつての母校――王立騎士学校へ向かった。


三年前まで通っていた場所だ。

だが校門の周囲には、焦げ跡や補修跡が残っている。


(まるで戦場じゃないか……)


校庭は補修中で、訓練生たちは警戒の面持ち。

魔物が増えた影響で、日常訓練に加え、戦闘演習の比率が少し増えたようだ。


その時。


「…………誰?」


背後から鋭い声がした。


振り向くと、剣を抜いた少女が立っていた。

赤茶の髪をツインにまとめ、鋭い蒼の瞳。


「……セリナ?」


「――ッ、本当に……ハルヒ……?」


セリナ=アークライト。

ハルヒの幼馴染みであり、親友。

だが、彼女の雰囲気は以前よりも少し大人びて、戦いの影を帯びていた。


剣を落とし、震える指先を胸元へ押し当てる。


「三年前……あなたが突然いなくなって……

学院中、必死に探したんだよ。

死んだって噂されて……でも、信じたくなくて……」


「……セリナ」


その瞳は赤く潤み、だがすぐに鋭くハルヒを睨んだ。


「帰ってこないなら……帰ってこないって言ってくれれば……!」


「ごめん。俺も……帰るつもりだったんだ。

本当に……帰りたかった。けど――」


言葉を探すハルヒを、セリナがじっと見つめる。

やがて彼女は、小さく首を振った。


「……いいよ。

戻ってきた……それだけで」


その瞬間、校庭の空気が震えた。


新たな魔物の出現


 空間がひび割れたわけではない。

黒い霧の中から、ゴブリンの小群が姿を現す。

オークやスケルトンも、少数ながら活動を始めている。


「またか……」

セリナが剣を構え、ハルヒに言う。


「最近、この辺りに魔物が増えてるんだ。

どうやら……何かを探してるように見える」


(……まさか、俺の刻印の力に引き寄せられて……?)


裂け目のようなものはない。

ただ、魔力の増幅を伴って現れる通常の魔物の群れ。


ハルヒは胸の刻印に触れる。


(みんな……レオンも、リィナも、ミリアも……

そして、まだ終わっていないアルディエル……

未来が少し歪んでしまったなら……俺が守らなきゃ……)


「――ここからは、俺が戦う番だ」


 ハルヒの体から赤い時光がほとばしり、


学院の中庭に現れたゴブリンたちへ正面から駆ける。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ