--第82話 時輪崩壊
時海の奔流が、かつてないほど荒れ狂う。
未来線を振りかざすアルディエルの槍が、空間の中心に“無数の時輪”を生み出していた。
その輪は、過去・現在・未来を同時に削り、すべての存在を均衡の中に押し込もうとする。
——これが魔王の真の力、時輪崩壊。
「この……世界ごと壊す力……ッ!」
ハルヒが叫ぶ。胸の刻印が熱を帯び、赤く脈打つ。
千年後の未来から来た彼だからこそ、この絶対的時間の奔流を理解できる。
レオンが剣を振るい、重力障壁を破る未来の刃を切り裂く。
ガルドは己の巨躯で時輪の中心へ突撃し、力場を一瞬固定する。
リィナは歌で時間を部分的に巻き戻し、仲間の傷を“今”に修正する。
セリアは光の弓で未来線を射抜き、アルディエルの意図する未来を破壊。
ミリアは回復の光を加速させ、ユグノアは戦術予測で最適な行動ルートを瞬時に割り出す。
七人の連携は完璧に重なった。だが、魔王の力はそれを上回る。
「愚かな……私の世界を止めるなど、できはしない」
アルディエルの声が時海の中心で反響する。
槍が叩きつけられるたび、未来の痛みと過去の傷が一度に七人を襲った。
──普通の戦闘なら、ここで七人は散るはずだった。
胸の時の刻印が、真紅に燃え上がる。
彼の意識は千年前と千年後の自分を同時に感じ取り、無数の未来を視認する。
「ここで……、未来を切り拓くッ!!」
ハルヒは全身の力を剣に集中。
刻印の力が時輪の奔流に干渉し、アルディエルの時空制御を逆転させる。
しかし代償は大きい。
時間の連続性が彼の体を引き裂き、存在時間が削られ始める。
千年後に帰るための条件は、全力を使い切ること。
アルディエルが槍を振り上げる。
時海の空間が歪み、七人は過去と未来の自分自身に押し潰されそうになる。
槍の軌道は、あらゆる時間軸を貫く。
「《時輪・無限断層》――ッ!」
光の破片が時空に衝突し、波紋が無限に広がる。
七人は押し返される。
「くっ……負けるか……!」
レオンの剣が反撃の光を放ち、ガルドが巨大な拳で時間の流れを撹乱する。
ミリアの光、リィナの歌、セリアの矢、ユグノアの策……全てが一点に集中。
ハルヒが踏み込む。
未来を切り裂く剣と、過去を打ち消す力。
彼の刃は“時輪そのもの”に突き刺さった。
世界が振動する。過去と未来のすべてが同時に崩れ、時輪は砕け散った。
アルディエルが槍を握る手をわずかに揺らす。
その瞳に、初めて“焦燥”が浮かぶ。
「……なに……!?」
七人は立ち上がる。
時輪崩壊は、彼らの意思によって阻止されたのだ。




