--第79話 時海墜落
――白と黒の奔流。
七人はその渦中へ、落ちていった。
かつて誰も見たことのない“時間の深海”。
過去と未来が混線し、崩れた時の断片が刃のように舞い踊る。
「ここ……は……ッ!?」
足場はない。
空も地も、昼も夜も存在しない。
ただ終わりなき“時の海”だけが、波のうねりのように脈動していた。
「気を抜くな! アルディエルの領域だ!」
レオンが叫ぶと同時に、
遠くで何かが揺らぎ、魔王の影が現れる。
時網のような残光を幾重にも引き連れ、アルディエルは“歩いて”いた。
「ようこそ、七人の英雄たち。
ここは――私が作り上げた、“時間の最果て”。」
その声は澄み切っていた。
まるで世界の理そのものが語っているかのように。
魔王の世界 ― “時間停止”が常に揺らぐ領域
ミリアが震える声で呟いた。
「……ここ、全部……動いているようで、止まってる……?」
「そうだ。」
アルディエルの足元に波紋が広がる。
「この時海は、すべてが“静止と運動の狭間”にある。
お前たちの一瞬の油断が、永遠の停止へ変換される。」
つまり――ここでは、
一瞬の迷いすら“死”だった。
その瞬間、海の奥から“漆黒の影”が飛び出した。
「ッ来るぞ!」
影はハルヒへ走る。
ハルヒが構えた瞬間――影は“時間を巻き戻し”、逆の位置から襲いかかった。
「くっ! 巻き戻し攻撃……!?」
「影もアルディエルの分体だ。
彼の“過去の攻撃”すら、現在に呼び戻せる。」
ユグノアの分析は正しい。
だが理解したところでどうにもならない速度だった。
「ガルド! 壁を!」
「任せろォッ!!」
ガルドが拳を地に叩き、
時間の波を震わせて分厚い障壁を構築する。
が――
バキィィィッ!!
“未来の一撃”が壁を貫通し、ガルドの肩を裂いた。
「ぐっ……! クソッ!」
「ガルドッ!!」
ミリアが即座に回復を試みる。
だが――その光さえ、時間に飲み込まれる。
「……え……? 私の魔法が遅れてる……?」
癒しの光が届く前に“時間の渦”がミリアの魔力を奪い、
術式が数秒遅れて発動してしまう。
「ここでは、術も、肉体も、精神すらも“正常に進行しない”。
――それが私の世界だ。」
アルディエル、時紡ぎの槍で“時間の裁き”を開始
アルディエルが槍を持ち上げた。
その輝きはもう武器ではなかった。
それは“時間の中心線”――世界の軌道。
「《時殻・審断》。」
振り下ろされた一閃が、時海そのものを真っ二つに裂く。
過去の波が左側へ、
未来の奔流が右側へ。
七人はその狭間へ投げ出され――
「うわぁっ!?」「くっ……!」
押し寄せるのは“まだ起きていない未来のダメージ”と、
“すでに起きた過去の痛み”。
七人の身体が、二方向から“違う死”に引き裂かれかける。
「こんな……の、反則よ……!」
リィナが血を流しながら叫ぶ。
「反則? 違う。
私は――時間を“正確に使っている”だけだ。」
アルディエルの黒い外套が、時間の風で揺れる。
「私に抗うということは、“世界”に抗うということ。
お前たちの未来は、ここで閉じる。」
だが――七人は折れない
「閉じないッ!!」
ハルヒが叫んだ。
足が震えていても、腕が裂けていても。
未来の攻撃が背を打ち抜こうとしていても。
それでも――剣を握った。
「ここで終わる未来なんて、誰も望んでねぇだろ……ッ!!」
「来い、ハルヒの未来を守る!!」
レオンが剣聖の“未来斬り”を叩き込む。
未来のダメージが霧散する。
セリアが続く。
「なら私が、“過去の傷”を断ち切る!!」
過去を映した光の矢が、七人に残る“痛みの記憶”を切り裂いていく。
ミリアは遅延していた回復の光を強制的に加速させ、
ガルドは重力障壁で七人の周囲の時間を“固定”する。
「未来は流さねぇ! 過去も支配させねぇ!!
ここは……俺たちの“今”だァッ!!」
ガルドが吼えた瞬間、
「《風歌・時超え(リヴレインド)》――ッ!」
リィナの歌が時海を震わせ、
七人の時間だけを正常に戻した。
その波が、アルディエルの目に初めて“驚愕”を宿す。
ハルヒは、時海の中心へと踏み込む
「アルディエル――!」
ハルヒが剣を構えた。
周囲の波が荒れ狂う。
過去が砕け、未来が渦巻き、時空の叫びが響き渡る。
「俺たちの未来を、閉じさせはしないッ!!」
「来い、ハルヒ。
ならば証明しろ。“未来”を掴む資格を。」
二人の足元の時海が光を帯び、
世界が震え始める。




