--第78話 時刻乱舞
――時間が、舞っていた。
時紡ぎの槍を握るアルディエルの一歩で、魔王の間の景色は瞬時に三つへ“分岐”した。
天井が崩れ落ちる未来。
床が溶け落ちる過去。
そして七人が立つ“今”。
三層の世界が重なり、ずれ、擦れ合い、軋みを上げる。
「来る……ッ!!」
リィナが叫ぶより早く、
アルディエルはふっと姿を消した。
――違う。消えたのではない。
時間の向こう側へ跳んだのだ。
〈時間跳躍戦 ― 魔王の“真の機動”〉
わずかな残光すら残さず、アルディエルは一瞬だけ“未来”へ。
次の瞬間には“過去”の自分を現在へ重ね、二重の残像を生み出す。
「ッ――!? 二体!?」
「違う! あれは“時間差”だッ!!」
レオンが歯を食いしばる間に、
二つの残像が異なる軌道で槍を突き込む。
一本は未来から届く“避けられない一撃”。
一本は過去から届く“すでに命中している一撃”。
二重の死。
七人の背筋に、冷たく鋭い感覚が走る。
「ユグノア、援護ッ!!」
「言われるまでもないわッ!」
ユグノアが符術を展開し、時間干渉を“遅延”させる。
セリアとレオンが前に立ち、刃と光の矢で時間の流れごと受け止めた。
瞬間――世界が白熱した。
ギギギギギギィィィ――!!
矢が時間の圧力に軋み、セリアの腕が震える。
レオンの足元が数秒分削り取られ、地面が揺れた。
「ッ……まだいけるッ!!」
後方からガルドの咆哮。
重力障壁が七人を包み、過去と未来の衝突を押し返す。
ミリアが間断なく治癒の光を流し込み、結界のひび割れを埋めていく。
「アルディエル……! ここまでするのか!」
リィナが息を吸い、炎の螺旋を纏って踏み込んだ。
〈七人の反撃 ― “未来を奪い返す”一撃〉
アルディエルの背後へ抜けたリィナの魔力が一瞬で膨張する。
だが、その足が突然――“止まった”。
「――っ!? 動かなぃ……!?」
時間が固定されていた。
リィナの時間だけが“0.3秒”封じられている。
その隙を逃す魔王ではない。
「未来を掴めぬ者に、未来を語る資格はない。」
時紡ぎの槍がリィナの胸を貫く軌道へ。
「させるかァッ!!」
割り込んだのは、レオンだった。
剣を逆手に構え、未来から迫る槍を真横から受け流す。
たった一度の剣閃。
しかしそれは、レオンが積み上げた“数千もの訓練の時間”を極限まで圧縮した一撃。
その隙を――セリアが逃すはずがない。
「《時鎖・双断》――ッ!!」
彼女の光の矢が二重の円弧を描き、アルディエルの足元に“時の鎖”を打ち込む。
一瞬だけ、魔王の時間が重くなる。
その一瞬は――七人にとっての“未来”だった。
「ミリアッ!!」
「いくよ――《聖律・星界の輪》ッ!!」
ミリアの聖印が輝き、七人全員の魔力を一つの円環へ束ねる。
光が弾け、空間が震え、アルディエルの周囲の時間のゆらぎが押し返された。
七人の声が重なる。
「「これが――俺たちの“未来奪還”だッ!!」」
魔王の“時紡ぎの槍”の真価
だが。
アルディエルの瞳は、揺るがなかった。
「素晴らしい……実に素晴らしい。
ならば、そろそろ“本質”を見せよう。」
時紡ぎの槍を逆手に構えた瞬間、
周囲の時間が完全に沈黙した。
風も、光も、落ちかけた瓦礫も、何もかも。
世界が――止まった。
その静止した世界で、ただ一人。
魔王アルディエルだけが、歩いていた。
「さあ――次は、私だけの“世界”で戦おう。」
そして彼が槍を振り下ろした瞬間、
静止世界が砕け散り、七人は“時の海”へ叩き落とされる。
未来も過去も混ざり合う、白と黒の荒れ狂う時界。
戦いは、いよいよ――
魔王戦の核心へ突入する。




