--第77話 時紡ぎの槍
――空間が、悲鳴を上げていた。
崩落しかけた魔王の間。その中心に立つアルディエルの影が、ゆっくりと――しかし確実に、禍々しい輝きを帯びて輪郭を変えていく。
滲むような光の粒子が周囲へと流れ、ひとつひとつが“時間の欠片”であることを、七人は本能で理解した。
「来る……! まだ“本気”を見せていなかったのかよ……!」
レオンの喉が震えた。
アルディエルの胸奥に浮かび上がった魔紋が、まるで宇宙のように複雑な螺旋を描く。
魔王アルディエルがゆっくりと腕を掲げた。
指先からあふれた光が、一本の軌跡を描いて収束する。
――それは槍だった。
しかし、ただの槍ではない。
透明でありながら、見た瞬間に脳が悲鳴を上げる。
存在しているのに、存在していない。
触れれば流れる。
見れば溶ける。
“時”そのものを束ね、圧縮し、貫くためだけに形を取った矛。
アルディエルの声が、どこか哀しげに響いた。
「時紡ぎの槍――これが、我が真の武器。
時間とは、滅びを避けるために紡がれた希望の糸。
だが……希望ほど脆いものは、他にない。」
槍が揺らめくたび、周囲の時間が数秒だけ巻き戻ったり、加速したりする。
壁の破片が破壊と修復を繰り返し、地面の亀裂が瞬時に広がっては消えた。
「ヤバすぎる……!」
「時間の縫い目が、剥がれてる……!」
七人は一瞬で悟った。
これは、世界の法則そのものと戦うということだ。
アルディエルが静かに言う。
「さあ、見せよ。
――おまえたちが望んだ“未来”、その価値を。」
限界突破の防御戦
「みんな、構えろッ!!」
ミリアが聖印を展開し、巨大な光盾を前に出す。
同時にガルドが地を叩き、三重の重力障壁を形成。
セリアとレオンは前へ躍り出て刃と光の矢を交差させ、時間干渉に耐えるための結界斬を放つ。
ユグノアは後方で符術を重ね、リィナは全魔力を一点に集中させて準備に入った。
七人の力が重なり合い、まるで一つの巨大な生命体のような気配を放つ。
その瞬間――。
「……では、始めようか。
世界を裂く、“第一撃”を。」
アルディエルが時紡ぎの槍を軽く突き出した。
軽く、ただ“触れた”だけだったはずなのに――。
世界が、割れた。
空間がひび割れ、床が波紋のようにめくれ、七人へ向かって“未来”と“過去”が断片となって襲いかかる。
ミリアの光盾が悲鳴を上げ、ガルドの重力障壁が一瞬で三枚破砕される。
「ぐ……ッ! まだ……耐えられる!!」
「結界の縁が持っていかれてる! セリア、縫い直し急げッ!!」
七人は必死に防ぐ。
だが時間を貫く攻撃は、どれだけ守っても“守った時間”ごと消し飛ばす。
防御という概念すら、無力に近かった。
――それでも。
「ここを、突破しない限り……未来なんて言えない!」
リィナが叫び、仲間たちが呼応する。
魔王の間が蒼白く光った。
七人の限界を超えた魔力が、ひとつの円環を描きながら重なっていく。
アルディエルが槍を強く握りしめた。
「面白い。
ならば――次は、この“流転の連撃”を受けてみせよ。」
槍が、時空の軌道を描きながら構えられた。
本当の地獄は、ここから始まる。




