--第75話 レガリア戦争
──世界の心臓が、鳴った。
その鼓動は、魔王アルディエルが玉座から立ち上がった瞬間、
魔王城全体を揺らす衝撃として七人の英雄に降りかかった。
前話まで静寂を保っていた“時の間”は、
いまや大気そのものが悲鳴を上げる戦場へと変貌していた。
これは単なる魔王との戦いではない。
アルディエルが宣告した通り──
“世界の未来そのもの”を賭けた戦争の開幕だった。
世界の根源語“レガリア”──
星々の運命を織り上げる言葉を冠したこの戦いは、後にこう呼ばれる。
《レガリア戦争》──運命断絶の大戦。
時の魔王、完全覚醒
「理解しているか、英雄よ」
アルディエルの影が床に溶け、時間の波紋が広がる。
「この世界はすでに“終末の運命軌道”に乗っている。
私はただ、その終わりを確定させるのみだ」
「させるかよ!」
レオンが剣を構え、烈火のような気迫で進み出る。
「俺たちがここに来たのは、その運命をぶっ壊すためだ!」
アルディエルは微笑む。
「運命を壊す? ……ならば示せ。
未来を選ぶ痛みを、未来を奪う残酷さを。
それでもなお、お前たちの未来が“価値あるもの”であるのかを」
その声は怒りでも憎悪でもない。
ただ深すぎる“諦観”だけがそこにあった。
魔王が解き放つ世界終端の魔力
アルディエルは右手を掲げる。
次の瞬間──
天井が砕け、空に巨大な“時の渦”が出現した。
過去と未来の断片が、万華鏡のように螺旋を描きながら降り注ぐ。
「これは……世界の記憶……?」
ミリアが震える声で呟いた。
そこには、滅びた都市。
生まれなかった子供。
選ばれなかった未来。
英雄たちが歩み得た“別の時間”が混ざり合っていた。
「レガリアとは、世界が最後に放つ“運命の言葉”だ。
終わる世界は、最も輝いた瞬間へ回帰する。
それすら……お前たちには見えぬか」
アルディエルの瞳に燃えるのは、哀れみだった。
「見えてるよ」
ハルヒの声が、仲間全員を振り返らせる。
「俺たちは……全部見てきたよ。
選ばなかった未来も、失ってきた時間も。
それでもここにいるのは……それでも進みたいからだ!」
ハルヒの“時の剣”が光を放つ。
レオンは剣を掲げ、仲間の盾となり──
ガルドは戦斧を担ぎ、未来を切り開く力となり──
リィナは歌で風を呼び、仲間を未来へ運び──
ミリアは救いの光で、終わりを拒み──
ユグノアは策と理で道を整え──
セリアは弓で時間の狭間を穿つ。
「俺たちは七人で一つだ。
誰かが未来を見失っても、誰かが引き戻す。
誰かが倒れそうでも、誰かが支える」
ハルヒは“時の剣”を両手で構えた。
「これが俺たちの──
レガリアだ!」
レガリア戦争、勃発
「よかろう。
ならば示してみせよ、英雄たち」
アルディエルが手を振り下ろす。
魔王城が崩れ落ちる。
地面が未来に向かって伸びる。
空間が過去へと巻き戻る。
時間が乱流となって七人へ襲いかかる。
「各員──散開!
未来を繋ぐ動線を死守するわよ!」
ユグノアが叫び、風のように駆ける。
「ガルド、前衛!」
「任せたァァァアッ!!」
咆哮と共にガルドが飛び込み、
レオンがその背を守り、
リィナが風壁を広げ、
セリアが時の渦を弓で裂く。
「ミリア、支援を!」
「光よ、護り給え──!」
そしてハルヒは一歩、前へ。
アルディエルが無音で現れ、目の前に立つ。
「さあ、英雄。
私が終わらせる未来を……お前は救えるのか?」
“時を支配する者”と“時を斬り開く者”。
その刃と刃が重なる瞬間──
《レガリア戦争》は本格的に開戦した。




