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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--未来断章 :リィナ編


《リィナ vs 声を失った未来》


 魔王城の深層――“鏡歌ミラーメロディ”の間。


 みんなと別れたリィナは、淡い光の粒を踏むように静かに進む。

 通路に響くのは自分の呼吸音と……かすかな歌の残響。


 この世界――歌が反響して返ってくるはずなのに。


 リィナの声だけは、返ってこない。


 その理由を悟ったのは、扉をくぐった瞬間だった。


-- そこにいたのは、“声を失ったリィナ”


 眩い光が消え、視界に現れたのは広い円形の舞台。

 誰もいないのに、無数の観客席が闇の奥で揺れている。


 そして舞台の中央――


 リィナと同じ髪の色。

 同じ瞳の光。

 だが、その少女の唇は固く閉ざされたまま動かない。


 リィナが息を飲む。


 「……私?」


 声を失った未来のリィナは、何も言わず、ただ静かにこちらを見る。


 そして――胸元の宝珠を握りしめた。


 宝珠は砕け散っている。

 “歌魔力の核”とも呼ばれる、歌い手にとって魂そのもの。


 未来のリィナは、声を失った理由を言葉にせずとも語っていた。


-- 歌を失うということは、存在を失うということ


 リィナは震える指で胸に手を当てた。


 「私……歌えなくなったの……?」


 未来のリィナは返事をしない。

 ただ、歩み寄ってくる。


 音を消しながら。


 まるで空気そのものが歌を拒絶しているかのように。


 リィナは一歩下がる。


 「嫌だ……そんな未来、絶対に嫌っ!」


 歌うための声は、ただの音ではない。

 人を励まし、時を動かし、仲間の心をつなぐ“奇跡”。


 その声を失った未来――それはリィナにとって「自分を失う未来」だった。


-- 未来のリィナが動く――歌のない攻撃


 次の瞬間、影のリィナが右手を突き出した。


 無音の衝撃波が舞台を切り裂いた。


 「きゃっ――!」


 リィナの足元が爆ぜ、身体が宙を舞う。

 歌う間もない。


 影は再び無音の波を放つ。

 歌魔力を封じたまま、ただ純粋な“圧力”で押し潰す攻撃。


 リィナはなんとか転がって避けるが、胸が締め付けられるように痛む。


 ――歌が……出ない。


 影の結界が、リィナの声そのものを押し潰していた。



-- リィナの恐怖――「歌えない」は「存在できない」


 影の手が再び上がる。


 リィナの喉が鳴った。


 声が出ない恐怖。

 歌えない未来への絶望。


 耳鳴りのように、彼女の記憶が蘇る。


 ――ハルヒに初めて歌を聞かせた時の笑顔

 ――ミリアとユグノアと夜に歌い合ったあの日

 ――セリアの肩を抱いて優しく調和した音

 ――レオンやガルドの戦う背中に重ねた声


 全部、歌があったからできたこと。


 リィナは震える唇を噛みしめた。


 「歌えない私なんて……」


 影が迫る。


 無音の衝撃が、リィナの胸元へ。


 ――その瞬間。



-- “声”は倒れないためにある


 胸の奥で、たったひとつの記憶が呼び起こされた。


 ハルヒの言葉。


 『リィナの歌は、俺たちの“未来の形”だ』


 リィナの心が震えた。


 「……未来の、形……」


 それは、歌うためだけの声じゃない。


 仲間とつながるための声。

 時を動かすために存在する声。


 失っていいはずがない。


 リィナは胸を張った。


 恐怖で震えながらも、喉を開く。


 「――あぁぁぁあああっ!!」


 歌が、出た。


 影の圧力を割るように、たった一音が世界を切り裂く。


 未来のリィナの表情が初めて揺れた。


-- 決戦――歌と無音の衝突


 影が無音の衝撃を放ち、リィナは声で受け止める。


 音と無音。

 二つの力が舞台の中央で激突し、光が走る。


 リィナは叫ぶ。


 「私は……歌うよ!

  未来がどうなってても、声を失ってても!

  仲間がいる限り、私は歌い続ける!」


 影の衝撃が砕け散り、舞台全体が震える。


 リィナの声が響く。


 未来のリィナの胸の宝珠が、かすかに光った。


 そして――


 影は静かに跪き、光の粒となって溶けていった。


 残ったのは、微かな“歌の欠片”のような温かさ。



-- リィナは、未来の自分に誓う


 膝をついたリィナは、胸に手を当てた。


 「……声が消える未来でも

  私は、私の歌を守り抜くよ」


 消えていく影は、最後に“笑った”ように見えた。


 リィナは立ち上がる。


 震えながらも、確かな足取りで。


 歌を失う未来には、絶対にしないと心に誓いながら。



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