--未来断章 :リィナ編
《リィナ vs 声を失った未来》
魔王城の深層――“鏡歌”の間。
みんなと別れたリィナは、淡い光の粒を踏むように静かに進む。
通路に響くのは自分の呼吸音と……かすかな歌の残響。
この世界――歌が反響して返ってくるはずなのに。
リィナの声だけは、返ってこない。
その理由を悟ったのは、扉をくぐった瞬間だった。
-- そこにいたのは、“声を失ったリィナ”
眩い光が消え、視界に現れたのは広い円形の舞台。
誰もいないのに、無数の観客席が闇の奥で揺れている。
そして舞台の中央――
リィナと同じ髪の色。
同じ瞳の光。
だが、その少女の唇は固く閉ざされたまま動かない。
リィナが息を飲む。
「……私?」
声を失った未来のリィナは、何も言わず、ただ静かにこちらを見る。
そして――胸元の宝珠を握りしめた。
宝珠は砕け散っている。
“歌魔力の核”とも呼ばれる、歌い手にとって魂そのもの。
未来のリィナは、声を失った理由を言葉にせずとも語っていた。
-- 歌を失うということは、存在を失うということ
リィナは震える指で胸に手を当てた。
「私……歌えなくなったの……?」
未来のリィナは返事をしない。
ただ、歩み寄ってくる。
音を消しながら。
まるで空気そのものが歌を拒絶しているかのように。
リィナは一歩下がる。
「嫌だ……そんな未来、絶対に嫌っ!」
歌うための声は、ただの音ではない。
人を励まし、時を動かし、仲間の心をつなぐ“奇跡”。
その声を失った未来――それはリィナにとって「自分を失う未来」だった。
-- 未来のリィナが動く――歌のない攻撃
次の瞬間、影のリィナが右手を突き出した。
無音の衝撃波が舞台を切り裂いた。
「きゃっ――!」
リィナの足元が爆ぜ、身体が宙を舞う。
歌う間もない。
影は再び無音の波を放つ。
歌魔力を封じたまま、ただ純粋な“圧力”で押し潰す攻撃。
リィナはなんとか転がって避けるが、胸が締め付けられるように痛む。
――歌が……出ない。
影の結界が、リィナの声そのものを押し潰していた。
-- リィナの恐怖――「歌えない」は「存在できない」
影の手が再び上がる。
リィナの喉が鳴った。
声が出ない恐怖。
歌えない未来への絶望。
耳鳴りのように、彼女の記憶が蘇る。
――ハルヒに初めて歌を聞かせた時の笑顔
――ミリアとユグノアと夜に歌い合ったあの日
――セリアの肩を抱いて優しく調和した音
――レオンやガルドの戦う背中に重ねた声
全部、歌があったからできたこと。
リィナは震える唇を噛みしめた。
「歌えない私なんて……」
影が迫る。
無音の衝撃が、リィナの胸元へ。
――その瞬間。
-- “声”は倒れないためにある
胸の奥で、たったひとつの記憶が呼び起こされた。
ハルヒの言葉。
『リィナの歌は、俺たちの“未来の形”だ』
リィナの心が震えた。
「……未来の、形……」
それは、歌うためだけの声じゃない。
仲間とつながるための声。
時を動かすために存在する声。
失っていいはずがない。
リィナは胸を張った。
恐怖で震えながらも、喉を開く。
「――あぁぁぁあああっ!!」
歌が、出た。
影の圧力を割るように、たった一音が世界を切り裂く。
未来のリィナの表情が初めて揺れた。
-- 決戦――歌と無音の衝突
影が無音の衝撃を放ち、リィナは声で受け止める。
音と無音。
二つの力が舞台の中央で激突し、光が走る。
リィナは叫ぶ。
「私は……歌うよ!
未来がどうなってても、声を失ってても!
仲間がいる限り、私は歌い続ける!」
影の衝撃が砕け散り、舞台全体が震える。
リィナの声が響く。
未来のリィナの胸の宝珠が、かすかに光った。
そして――
影は静かに跪き、光の粒となって溶けていった。
残ったのは、微かな“歌の欠片”のような温かさ。
-- リィナは、未来の自分に誓う
膝をついたリィナは、胸に手を当てた。
「……声が消える未来でも
私は、私の歌を守り抜くよ」
消えていく影は、最後に“笑った”ように見えた。
リィナは立ち上がる。
震えながらも、確かな足取りで。
歌を失う未来には、絶対にしないと心に誓いながら。




