--未来断章 : ミリア編
〈ミリアvs救えなかった救済者〉
──世界は白に満ちていた。
果てしなく広がる空白。空も地も境界がなく、足元の感触すら曖昧で、ただ“何かを失った後”の静寂だけが、冷たく漂っている。
「ここは……どこ……?」
ミリアが呟いた途端、白い床に波紋が広がり、その中心から“影”がせり上がるように姿を現した。
影はミリアと同じ姿形をしていた。
髪の揺れ方、杖の形、祈る癖まで完全に同じ──ただ一つ、“目の光”だけが違った。
影のミリアの瞳には、温度がなかった。
祈り手が抱くべき温もりも、光も、希望すらも。
「……あなたは?」
「わたしは“未来のあなた”。救えなかった未来のミリア──折れた救済者よ」
その声は、優しさと諦めが入り混じった、妙に澄んだ響きだった。
「折れた……?」
「そう。あなたは、誰も救えなかった未来に行きつく。仲間も、世界も、なにより──自分自身も」
白い世界が揺れ、情景が浮かび上がる。
倒れ伏すレオン。
血に濡れたハルヒの手。
崩れ落ちるガルド。
歌を失って沈黙するリィナ。
ユグノアの折れた策士の盤面。
光を喪失し、前を見られなくなったセリア。
すべてが“死んだ未来”だった。
「やめて……こんなの……!」
ミリアの叫びを無視し、影のミリアは杖を握り潰すようにして言う。
「あなたが止まれば、全員が倒れる。
あなたの祈りは仲間を再び立たせる最後の灯火。
その灯火を、あなた自身が消すの」
「そんなこと……わたし、しない……!」
「するのよ」
影は冷たく告げた。
「あなたは優しすぎるから。
傷つく仲間を見るたび、自分の心が砕けていく。その痛みに気づけなかった。
癒す力が強くなるほど、あなた自身の痛みは深く沈んでいった」
影が手を伸ばすと、ミリアの頬に触れた。
それは不気味なほど冷たい。
「そしてある日、あなたは“祈り”を捨てる。
誰も救えない現実に、心が折れて──」
「……違う」
ミリアは影の手を振り払った。
震えていたが、瞳には確かな光が宿っている。
「わたしは、そんな未来を選ばない。
怖いよ……本当は怖くて、逃げたくて……泣きたい夜もたくさんある。
でも……仲間を放っておくなんて、絶対にできない!」
「理想論よ。心は限界を超えれば割れるもの」
「割れたっていい。砕けたっていい。
そのたびに、わたしは祈る。
誰かのために、そして──わたし自身のためにも!」
胸に手を置くと、小さな光がぽっと灯る。
それは頼りなく、吹けば消えるほど弱い。しかし──確かな“温かさ”を持っていた。
「これが……わたしの祈り」
「無駄よ。弱すぎる」
「弱いよ。でも──これがわたし!」
ミリアは影の前に立ち、杖を構える。
「折れた未来があるのなら、折れない未来だってある!
わたしは、その未来を選ぶ!」
影は静かに瞼を閉じ、杖を掲げた。
黒い癒光──“反転した祈り”が渦を巻く。
「ならば証明してみせて。
あなたが“折れない救済者”であることを」
白い世界が裂け、二つの祈光がぶつかり合った。
影の黒光は、過去の痛み、恐怖、後悔、すべてを具現化した闇。
一方、ミリアの光は震えながらも真っ直ぐに伸びる、未来を掴む力。
光と影が衝突し、ミリアの膝が折れかける。
(怖い……! わたし、負けちゃう……)
そのとき──仲間たちの声が胸に響いた。
『ミリア、いつもありがとう』
『お前の祈りで何度立ち上がったと思ってる!』
『ミリアの光は、わたしの歌の始まりよ』
『オレの背中はお前の光に支えられている!』
『ミリア、お前の未来は……お前が決めろ』
「…………!」
黒い光が押し寄せる中、ミリアは杖を握り直した。
「わたしは……わたしの祈りを信じる!
仲間がくれた言葉も、想いも!
絶望なんて、未来なんて──跳ね返してみせる!」
白い世界に、まばゆい光が放たれた。
影の黒光を押し返し、白い空間を満たしていく。
影のミリアは光に包まれながら、最後に微笑んだ。
「……なら、その未来はきっと……折れないわね」
影は光の中で静かに溶けていき、白い世界に温かな風が吹いた。
ミリアは胸に手を当てる。
「わたしは絶対に折れない。
何度傷ついても、祈り続ける。
みんなと一緒の未来を──この手で掴む!」
白が溶け、現実へと帰還する光がミリアを包む。
その瞳にはもう、迷いはなかった。




