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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--未来断章 : ミリア編


 〈ミリアvs救えなかった救済者〉


 ──世界は白に満ちていた。


 果てしなく広がる空白。空も地も境界がなく、足元の感触すら曖昧で、ただ“何かを失った後”の静寂だけが、冷たく漂っている。


「ここは……どこ……?」


 ミリアが呟いた途端、白い床に波紋が広がり、その中心から“影”がせり上がるように姿を現した。


 影はミリアと同じ姿形をしていた。

 髪の揺れ方、杖の形、祈る癖まで完全に同じ──ただ一つ、“目の光”だけが違った。


 影のミリアの瞳には、温度がなかった。

 祈り手が抱くべき温もりも、光も、希望すらも。


「……あなたは?」


「わたしは“未来のあなた”。救えなかった未来のミリア──折れた救済者よ」


 その声は、優しさと諦めが入り混じった、妙に澄んだ響きだった。


「折れた……?」


「そう。あなたは、誰も救えなかった未来に行きつく。仲間も、世界も、なにより──自分自身も」


 白い世界が揺れ、情景が浮かび上がる。


 倒れ伏すレオン。

 血に濡れたハルヒの手。

 崩れ落ちるガルド。

 歌を失って沈黙するリィナ。

 ユグノアの折れた策士の盤面。

 光を喪失し、前を見られなくなったセリア。


 すべてが“死んだ未来”だった。


「やめて……こんなの……!」


 ミリアの叫びを無視し、影のミリアは杖を握り潰すようにして言う。


「あなたが止まれば、全員が倒れる。

 あなたの祈りは仲間を再び立たせる最後の灯火。

 その灯火を、あなた自身が消すの」


「そんなこと……わたし、しない……!」


「するのよ」


 影は冷たく告げた。


「あなたは優しすぎるから。

 傷つく仲間を見るたび、自分の心が砕けていく。その痛みに気づけなかった。

 癒す力が強くなるほど、あなた自身の痛みは深く沈んでいった」


 影が手を伸ばすと、ミリアの頬に触れた。

 それは不気味なほど冷たい。


「そしてある日、あなたは“祈り”を捨てる。

 誰も救えない現実に、心が折れて──」


「……違う」


 ミリアは影の手を振り払った。

 震えていたが、瞳には確かな光が宿っている。


「わたしは、そんな未来を選ばない。

 怖いよ……本当は怖くて、逃げたくて……泣きたい夜もたくさんある。

 でも……仲間を放っておくなんて、絶対にできない!」


「理想論よ。心は限界を超えれば割れるもの」


「割れたっていい。砕けたっていい。

 そのたびに、わたしは祈る。

 誰かのために、そして──わたし自身のためにも!」


 胸に手を置くと、小さな光がぽっと灯る。

 それは頼りなく、吹けば消えるほど弱い。しかし──確かな“温かさ”を持っていた。


「これが……わたしの祈り」


「無駄よ。弱すぎる」


「弱いよ。でも──これがわたし!」


 ミリアは影の前に立ち、杖を構える。


「折れた未来があるのなら、折れない未来だってある!

 わたしは、その未来を選ぶ!」


 影は静かに瞼を閉じ、杖を掲げた。

 黒い癒光──“反転した祈り”が渦を巻く。


「ならば証明してみせて。

 あなたが“折れない救済者”であることを」


 白い世界が裂け、二つの祈光がぶつかり合った。


 影の黒光は、過去の痛み、恐怖、後悔、すべてを具現化した闇。

 一方、ミリアの光は震えながらも真っ直ぐに伸びる、未来を掴む力。


 光と影が衝突し、ミリアの膝が折れかける。


(怖い……! わたし、負けちゃう……)


 そのとき──仲間たちの声が胸に響いた。


『ミリア、いつもありがとう』

『お前の祈りで何度立ち上がったと思ってる!』

『ミリアの光は、わたしの歌の始まりよ』

『オレの背中はお前の光に支えられている!』

『ミリア、お前の未来は……お前が決めろ』


「…………!」


 黒い光が押し寄せる中、ミリアは杖を握り直した。


「わたしは……わたしの祈りを信じる!

 仲間がくれた言葉も、想いも!

 絶望なんて、未来なんて──跳ね返してみせる!」


 白い世界に、まばゆい光が放たれた。


 影の黒光を押し返し、白い空間を満たしていく。


 影のミリアは光に包まれながら、最後に微笑んだ。


「……なら、その未来はきっと……折れないわね」


 影は光の中で静かに溶けていき、白い世界に温かな風が吹いた。


 ミリアは胸に手を当てる。


「わたしは絶対に折れない。

 何度傷ついても、祈り続ける。

 みんなと一緒の未来を──この手で掴む!」


 白が溶け、現実へと帰還する光がミリアを包む。


 その瞳にはもう、迷いはなかった。



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