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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--未来断章 :セリア編


   〈セリアvs 弓を捨てた刃の影**〉


 世界は、凍りついた森のように静かだった。


 薄い霧が地を覆い、どこからともなく吹く風が、葉のない木々を寂しく鳴らしている。

 その中央に立つセリアは、背の弓を握りしめて周囲を見回した。


「ここは……わたしの“未来”?」


 返事の代わりに、霧から一人の影が歩み出てきた。


 影はセリアと同じ髪、同じ顔。

 ただひとつ違うのは──背に弓がなかった。

 代わりに腰には一本の長剣が吊るされている。


「……これが“弓を捨てた未来”?

 そんなの、ありえない」


 影のセリアは冷たい目で彼女を見た。


「ありえるわよ。あなたはいつか気づく。

 弓は届かない。誰も守れない。

 だから、より強い“刃”を選ぶの」


「違う。届かせるために弓を引くの」


「理想論」


 影は剣を抜き、白い霧に音が響く。


「あなたはいずれ……ハルヒを守れなかったことを後悔する。

 レオンの速さにも、ガルドの剛力にも、リィナの歌にも劣る自分を呪う。

 だから弓を捨て、剣を握るの」


「剣が悪いって言いたいの?」


「違う。弱さが悪いと言っているの」


 影は一瞬で距離を詰め、剣の切っ先をセリアの喉元へ突きつけた。


「この剣は、あなたの“強くあろうとした結果”。

 弓で守れなかった後悔が、あなたを刃へと駆り立てる」


「そんな……わたしが弓を捨てるなんて」


「捨てるわ。わたしは未来のあなた。

 だから全部知っている」


 影は剣の柄に手を添え、低く囁く。


「あなたは届かない矢を、何度も見送った。

 仲間の背中が遠すぎると感じた。

 戦場で何度も震えた。

 そのたびに、自分は要らないと……そう思ったはず」


 セリアの指が、弓の弦の上で震える。


 その震えを逃さず、影は言葉を突き刺した。


「だから私は、弓を捨てた。

 届かない痛みに耐えきれず、“刃”に逃げたの」


「……逃げた?」


「そう。逃げたのよ。あなたは」


 影の剣が振りかざされる。

 白い霧を裂いて迫る刃を、セリアは横跳びで受け流した。


「……逃げるもんか」


 息を整え、弓を構える。

 矢をつがえ、視線をまっすぐ影に向けた。


「わたしは……怖かったよ。弱いって言われて、背中を預けられてるのが不安で。

 でも、それでも逃げない。

 逃げた未来なんて、絶対に選ばない!」


「なら、証明して」


 影の剣が黒い霧を裂きながら襲いかかる。

 セリアは矢を放ち、影の肉薄を阻む。


 剣と矢、近接と遠距離。

 かみ合わないはずの二つの力が、未来を分ける刃と矢となって衝突した。


 セリアの矢は震え、揺れ、時には折れようとした。


 それでも、彼女の瞳は揺らがない。


「わたしの矢は……仲間のための矢だ!」


 最後の一矢をつがえる。

 弦を最大限に引き、心の震えをすべて乗せる。


「剣を選んだ未来のわたし──ごめん。

 でも、わたしは弓を選ぶ!」


 放たれた矢は、一直線に影の胸を貫いた。


 影のセリアは静かに膝をつき、わずかに微笑んだ。


「……なら、その矢は……ちゃんと届くわね」


 影は霧に溶け、世界は淡い光へ戻った。


 セリアは弓を抱きしめ、深く息を吸う。


「わたしは逃げない。

 弱さがあっても……それでも“届く矢”を放つ」


 光が差し、彼女は現実へと帰還していった。



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