--未来断章 :ユグノア編
《ユグノア vs 破綻した未来予測の自分》**
みんなと別れ、ユグノアは薄闇の回廊を歩いていた。
魔王城の内部は迷路のように歪み、時間の流れすら一定していない。
壁には無数の“戦場の幻影”が映り込み、未来と過去の断片が交互に揺れる。
だがユグノアは眉ひとつ動かさなかった。
彼女の頭脳は常に冷静で、むしろこの不規則さを“観察対象”として処理する。
――だからこそ、薄闇の中心に立つ“影”を見たときも、驚きより分析が先にきた。
そこにいたのは、“決して勝てなかった未来のユグノア”
赤いサークルに囲まれた円形の部屋。
その中央に、椅子に座った少女がいた。
金髪、冷静な瞳、無表情の戦術士――
未来のユグノア。
彼女は頬杖をつき、こちらを見下すような視線を向けてくる。
「来たのね。
でも遅いわ。……あなたは、もう“負けている”」
ユグノアはわずかに眉をひそめた。
「負けている? まだ戦ってもいないのに?」
影のユグノアは笑う。
「そう、あなたはまだ気づかない。
策士の敗北は、戦う前に決まるものよ。
もうあなたは“詰み”。ここで破綻して終わる未来を、私は知っている」
未来のユグノア――戦術の破綻が生んだ怪物
影のユグノアは指を弾いた。
瞬間、部屋の周囲に無数の魔法陣が浮かぶ。
そのどれもが“戦略図”であり、“未来の分岐図”であり、“詰みの証拠”だった。
影のユグノアの声が淡々と響く。
「あなたは仲間を信じすぎる。
英雄たちの才能に頼りすぎる。
だから――ある時点から未来予測は破綻する」
淡々と言い放つ影のユグノア。
「私の未来、あなたの未来。
どちらも“完全な敗北”だったわ。仲間を守れず、判断が遅れ……
戦術士としてのあなたは死んだ。」
ユグノアの胸が一瞬だけ痛む。
その言葉は、誰よりもユグノア自身が恐れる“最悪の未来”。
策士の恐怖は、失敗の未来にある
影のユグノアが立ち上がり、歩み寄る。
「あなたは知っているはず。
仲間が死ぬ未来ほど、策士にとって最悪の地獄はない」
ユグノアの喉がわずかに動いた。
影のユグノアは続ける。
「だからあなたは……選べなかった。
勝つ未来より、失わない未来を優先し続けた。
その優しさが、あなたを“策士失格”にしたの」
それは――
誰にも言われたくなかった“本当の弱点”。
ユグノアの拳が震えた。
未来のユグノアの攻撃――戦術を上書きする
影のユグノアが手を上げると、空間に数十の赤い“選択肢のルート”が浮かぶ。
「あなたの行動はすべて読めるわ。
だって私は“あなたが失敗を恐れて出した答え”そのものなんだから」
その言葉とともに、床が動く。
ユグノアの逃げ道が、次々に塞がっていく。
未来予測が破綻した未来のユグノアは、
逆に“相手の未来を封じる”戦術に行き着いていた。
まるで――
未来を収束させ、逃げ場のない“戦術の檻”を構築するように。
ユグノアの最大の弱点は、ユグノア自身
影のユグノアが静かに呟く。
「あなたは、私を倒せない。
あなたより弱いのではなく――
あなた自身の“恐れ”が私を作ったのだから」
ユグノアは息を呑む。
この影はただの幻影じゃない。
ユグノアが最も恐れる『自分の可能性』の集合体。
“仲間を守れず失敗したユグノア”。
“自分を責め続けたユグノア”。
“策士としての役割を放棄したユグノア”。
ユグノアは胸の奥で叫んでいた。
――嫌だ。
――そんな未来、認めたくない。
だが、恐怖は晴れないままでは消えない
影が指を鳴らす。
空間が収束し、ユグノアの逃げ場はゼロになる。
未来のユグノアが微笑んだ。
「終わりね。策士ユグノア。
あなたは……未来を読むのが怖くなった」
ユグノアの瞳が見開かれる。
胸の奥の傷を、完全に言葉にされた。
それでも、ユグノアは――
足が震える。
呼吸が浅い。
だけど、ユグノアは前を向いた。
「……それでも私は……」
影が動きを止める。
ユグノアは震えながらも言葉を絞り出した。
「仲間を信じる未来を捨てない。
彼らの失敗を恐れる未来より、
一緒に戦う未来を選ぶ。」
影のユグノアが激しく眉をひそめる。
「愚かだわ。策士として失格」
ユグノアは首を振った。
「策士である前に、私は仲間のユグノアなの。
恐れる未来があっても、立ち止まる未来は選ばない」
未来のユグノア、崩壊
影のユグノアが静かに苦しげに目を閉じた。
「……あぁ、そう。なら……」
影の身体が光にほどけていく。
「やっと……やっと“あなた”は私を超えた」
その声は、どこか救われたようだった。
ユグノアはそっと手を差し伸べたが、影は消えていった。
残ったのは――
ひとつの赤い宝珠。
“未来予測の欠片”。
ユグノアはそれを拾い、掌に包む。
「破綻する未来なんて……私が塗り替えてみせるわ。
ハルヒたちと一緒に」
そして、静かに歩き出した。
策士として、仲間のひとりとして。




