--第71話 未来断章
時間が、止まった。
いや――“止まったように見える”だけだった。
魔王城の中心に広がる《時の迷宮》。
ハルヒたち七人は、異様な静寂の世界へと閉ざされた。
黒い霧がゆっくりとうねり、形を作り始める。
七つの影。
その姿は、全員が知っている。
己自身――。
「……全員、そっくりだ」
レオンが息を飲んだ。
影のレオンは、無表情でただ立っている。しかし、その剣先には一切の隙がない。
ミリアが胸元を押さえ、小さく震えた。
「これは……ただの幻じゃない……“未来”から切り取られた、可能性そのもの……」
「未来って……こんな形で現れんのかよ……」
ガルドの声にも戸惑いが混じっていた。
ユグノアは眼鏡を押し上げながら分析する。
「私たちの“もしもの道”。
選ばなかった可能性、
あるいは――辿るはずだった破滅の未来。」
影のセリアは、弓を持っていない。
代わりに、虚ろな目で小さな短剣だけを握っていた。
影のリィナは、喉を押さえている。
声を失った未来――そんな痛ましさが滲んでいた。
影のミリアは、祈りの手が血で染まっていた。
救えなかった未来の象徴。
影のガルドに至っては、
身体が半ば“獣”に変貌していた。
強さを追い続け、壊れきった姿。
レオンの影は、冷酷で、
ハルヒの影は――髪が白く抜け落ち、瞳は濁っていた。
それらはすべて、
どこか「見てはいけない未来」を突き付けるような存在だった。
天井のない空間の奥から、あの声が響いた。
――これこそ、“あなたたちの未来断章”。
選び損ねた運命。
見捨てた可能性。
積み上げた罪のゆくえ。
声は静かで、穏やかで、どこか優しかった。
――英雄である前に、あなたたちは“人間”だ。
弱さを持たない英雄など存在しない。
だからこそ問おう。
――その弱さと向き合う覚悟があるか?
ハルヒは剣を握りしめる。
影の彼は、口を開いた。
「時間は、奪う。
大切なものほど先に失われる。
お前は、その痛みに耐えられない」
「そんなこと、ない」
ハルヒは首を振る。
「俺は……仲間がいる。
奪われる未来じゃなくて――守れる未来を選ぶ」
影のハルヒは、哀れむような目をした。
「その選択が、いちばん深い絶望に続く」
その瞬間、七つの影が七つの方向へと散った。
霧が割れ、七つの道が開く。
それぞれの道には、ひとつずつ影が立っている。
レオンは剣の柄を握る。
「なるほどな。
一人ずつやらせてもらうってわけか」
「怖いけど……でも、逃げない」
リィナは胸に手を当てた。
「未来と向き合うのは……英雄の資格だもの」
ミリアの声は震えていない。
「逃げても、未来は追ってくるものだしね」
ユグノアは皮肉気に笑った。
「俺は、俺を殴り倒す。それだけだ」
ガルドは拳を鳴らす。
「弓を捨てた私なんて……絶対に許せない」
セリアは真っ直ぐに影を見据える。
ハルヒは最後に、小さく息を吸った。
「……よし。
みんな、自分の影と向き合おう。
未来の断章を、七人で突破する」
七本の道が、光に照らされる。
--影との個別戦、開始
七人はそれぞれの進むべき道へ足を踏み出す。
ハルヒ vs “時間を失ったハルヒ”
レオン vs 冷酷な剣聖の未来
リィナ vs 声を失った未来
ユグノア vs 破綻した未来予測の自分
ミリア vs 救えなかった救済者
セリア vs 弓を捨てた刃の影
ガルド vs 壊れた獣の未来
時の迷宮が、静かに七つの扉を閉ざした。
それはまぎれもなく――
未来を決めるための戦いの始まりだった。




