表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

7/49

--第7話「時が止まる瞬間」


 暴風の試練を終え、演習場に静寂が戻る。


 砂埃は舞い上がったまま、太陽の光が微かに差し込む。

 だが、ハルヒ・クロノスの胸に響く古びた時計の振動は、これまでの試練とは明らかに異なっていた。


 チチ……チチ……


 その鼓動は、まるで周囲の時間を吸い込むかのように響き、風も音も、空気さえも凍りついたかのように感じられる。


 「……これは……」


 ハルヒが剣を握り直した瞬間、演習場の空気が異様に重くなる。

 鳥の羽ばたき、遠くで走る生徒の足音、教師の呼び声――すべてが止まった。

 まるで世界そのものが、一瞬、静止したかのようだった。



 視界の端で、動かない火球が空中に浮かぶ。

 氷結の柱も、雷撃も、すべての魔法の残滓が宙に凍結していた。

 周囲の生徒たちは、動くことも声を出すこともできず、硬直している。


 「……時間が……止まった?」


 心の中で呟くハルヒ。

 古びた時計の針は止まったままだが、微かな振動が体中に伝わる。

 ――この時計が、時間そのものに干渉している。


 まるで、世界が“ハルヒだけを中心に動く”ことを許しているかのようだった。



 次の瞬間、影のような存在が視界に映る。

 黒く歪む魔力の残像――それは、時を操る力を持つ者特有の兆候だった。


 「……まさか……」


 訓練用の魔法の残像ではなく、現実の“時間の揺らぎ”だ。

 ハルヒは剣を抜き、構える。

 敵か――いや、正体はまだわからない。だが、間違いなく、この空間の異変を作り出しているのは、“時間を操る何者か”だ。



 足元の地面に微かな振動が走る。

 時計の鼓動と同期するかのように、世界の静止がわずかに揺れた。

 ハルヒは《瞬動》を起動し、ゆっくりと一歩踏み出す。


 普通なら足元の砂埃が舞い上がるはずだが、止まった世界の中では、まるで重力も時間も止まっているかのようだった。

 それでも彼のスキルは有効で、感覚が世界の変化を捉えている。


 「……なるほど、こういう感覚か」


 微かな時間の揺らぎを読み取り、剣を振る。

 宙に浮いた火球を斬ると、破片は静止したまま残る。

 スキルの連携で、彼だけが動けるこの状況を理解し、対応する。



 時計の振動はさらに強まった。

 チチ……チチ……

 まるで次の瞬間を告げる合図のようだ。

 ハルヒの体に、微かだが確実な感覚――“時間が動き出す瞬間”を予感させる。


 「……動くな、今は……まだ」


 古びた時計を握りしめ、集中を高める。

 敵の正体はまだ見えない。だが、彼は気づいた。

 ――この時計が、次に世界を動かすのだ、と。



 数秒の静寂の後、微かな光が時計から放たれる。

 振動が耳の奥で共鳴し、世界の停止が徐々に解けていく。

 火球は落下を始め、氷結の柱も崩れ、空気の流れが戻る。


 「……きたか」


 目の前の世界が再び動き出した瞬間、ハルヒの感覚は鋭く研ぎ澄まされる。

 風の匂い、砂の感触、遠くの声――すべてが鮮明に、そして速度を増して迫る。


 古びた時計は、微かに光を残し、針をゆっくり動かし始めた。


 ――その針が動くとき、新たな戦いが、彼を待ち受ける。

 スキルだけの無魔の剣士に、未知の局面が迫っていた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ