表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

69/102

--第69話 進軍


 グラーデンが沈んだあとも、戦場に漂う“時の残滓”は消えなかった。

 静止した余韻…いや、世界が一度死に、再び生まれ直したような感覚が、七人の英雄たちの呼吸と共に薄く震えていた。


 黒炎の知将の最期の言葉が、まだ耳に残っている。


「お前たちの時は、まだ終わっていない。

 真の“時の使者”が……魔王城で待っている。」


 それは敗北の宣告ではなく、あまりにも静かな“予告”だった。



 砕け散った赤黒い結界が風へ溶け、視界の向こうに――見えた。


 魔王城。


 千の年月を拒み続けた巨城は、いまや雲間を裂いて浮かび上がるように、その姿を露わにしていた。

 黒曜の塔は天へ突き刺さり、そこから漏れる青白い光は“時の揺らぎ”そのもの。

 まるで、大地よりも空よりも古い何かが、あの城で待っている。


「……あそこが、すべての始まりであり、終わる場所なのね」


 ミリアが呟く。

 声はかすかに震えていたが、その瞳は一度も逸らさなかった。


「グラーデンの時間干渉……まだ残ってるな」

 リィナは周囲の風を読むように目を細めた。

「空間そのものが“未来”と“過去”を漏らしてる。気を抜けば、自分の影に襲われるぞ」


「それでも行くしかないだろ。あいつを放っておいたら、いずれ世界ごと時間切れだ」

 ガルドが戦斧を肩に担ぐ。


 誰も反論しなかった。

 すべてを賭けて辿り着いたこの場所で、後退という選択肢は存在しない。


 

 ハルヒが歩き出した。

 その背中を、六人の仲間の影が静かに追う。


 大地はまだ蒼くきらめく破片を吐き出し、戦場に落ちるたびに“時間の余響”を鳴らしていた。

 その中を進む彼らの足音は、不思議と乱れない。


 一歩進むごとに、

 過去で交わした誓いが――未来へ伸びていく。


 セリアがふと笑う。

「ねぇ、みんな。あの城……近いようで遠いよね」


「だからこそ、歩く価値があるんだよ」

 ユグノアが優しく答えた。

「何百年も閉ざされてきた場所に、俺たちが自分の足で踏み込むんだ。これは奇跡じゃない」


「奇跡じゃねぇよ」

 レオンが肩をすくめる。

「全部、俺たちで積み重ねてきた“結果”だ」


「……ええ。だから、怖いけれど――この恐怖を誇りたいわ」

 ミリアが胸元をそっと押さえる。

 心臓の鼓動が、確かに前へと進むリズムを刻んでいた。


 そして。


 七人の足音は、次第に一つの“行軍の響き”へと変わっていく。


 --世界が彼らを見た--


 風が鳴り、森が揺れ、雲が裂け――

 まるで、世界そのものが彼らの行進を見守っているかのようだった。


 ハルヒはゆっくりと剣に触れる。

 “時の剣”。

 グラーデンを打ち砕き、戦場の時間さえ上書きしたそれは、いま薄く光を帯びていた。


(……聞こえる。まだ遠いけど、確かに)


 魔王城のどこかから響く声。


――ようこそ、時の檻へ。英雄ハルヒ。


 低く、冷たく、それでいて美しく整った声だった。

 耳ではなく、心臓の奥底を叩くような響き。


「呼んでやがるな、あの化け物」

 ガルドが舌打ち混じりに言う。


「呼ぶなら応えてやればいい。これまで奪われた時間分、全部返してもらおう」

 レオンが鼻で笑う。


「……行こう」

 ハルヒは振り返らずに言った。

「俺たち七人の“時間”を、ここで終わらせないために」


「「おう(ええ/うん/わかった/任せて)」」


 声が重なり、七人の影が前へ伸びる。

 その影は、魔王城の闇へ向かって真っすぐに続いていた。


 そして、進軍の号令が鳴る


 空が裂け、魔王城を包む結界がうねる。

 それはまるで、来訪者を拒む門ではなく――

 強き者だけを選ぶための試練のようだった。


 ハルヒは剣を抜き、静かに掲げる。


「行くぞ。

 魔王城――時の檻を、ぶち破るんだ。」


 七本の武器が同時にきらめく。

 次の瞬間、英雄たちは疾風となり、魔王城へと駆けだす。


 その背に、沈みゆく太陽が最後の光を落とした。


 それはまるで――

 “時を超える英雄たち”の進軍を祝福する、黄金の号砲だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ