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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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68/101

--68話 終焉の知将


 ——世界が、軋んでいた。


 ハルヒとグラーデンの“時の衝突”によって粉々に砕けた時間の層は、今も戦場の上を漂っていた。

 砂粒のような過去の残響、薄膜のような未来の揺らぎ……それらが風のように交錯し、景色はゆっくりと歪み続けている。


 それでも、戦いは終わらなかった。


 白銀の軌跡を引きながら、ハルヒの時空剣が蒼い残光を放つ。

 対するグラーデンの手には、崩れゆく時の河を束ねて形成した“漆黒の槍”。


 刃と槍が触れ合うたび、時間が悲鳴を上げた。


「……限界のはずだ、英雄。

 何度も時間を越え、存在を削りながら……まだ立つか」


 グラーデンの声は静かだった。

 だが黒炎の槍から溢れる圧は、もはやただの戦士のそれではない。


「お前こそ……」

 ハルヒは息を切らしながらも剣を構え直す。

「未来予測も因果操作も……全部破綻してる。

 ここまでの時間操作は……お前の身体にだって負担のはずだ」


 グラーデンの口元がかすかに吊り上がった。


「負担? 面白い。

 私はとっくに……人の枠など捨てている」


 黒炎が爆ぜた。


 荒れ狂う時間の奔流を槍に吸い上げ、彼は一歩踏み出す。

 その踏み込みには、重力より重い“未来”が宿っていた。


「ハルヒ、見えるか?

 未来だ。

 おまえが敗れ、仲間が倒れ、光が尽きる未来が」


「見えねぇよ。

 俺は……そんな未来、認めない!」


 ハルヒの足元で白銀の時間輪が弾ける。

 “存在時間”を削るのと引き換えに切り拓いた、最後の瞬間加速。


 光が閃いた瞬間——


 七つの神器が、遠く離れた仲間たちのもとで一斉に輝いた。


 雷神剣が空を裂き、

 治癒魔法がみんなの傷を癒し、

 精霊歌の羽冠が祈るように揺れ、

 戦斧グラヴォルテスが大地を震わせ、

 光装弓セレスティアが淡い光を帯び、

 策士の影眼の盤が戦場の流れを読み取り、

 そして、ハルヒの時空剣が――七人の誓いを束ねた。


 光が収束し、時間の裂け目が一気に閉じていく。


「な……に?」


 初めて、グラーデンの未来予測が外れた。


「仲間の声が……残響が……

 俺たちの“時間”を繋いだ」


 ハルヒの足元から奔った白銀の裂光が戦場へと広がり、

 黒炎の槍に宿っていた“未来の破滅”を浄化していく。


 漆黒の知将は、わずかに瞠目した。


「……これが……“英雄の絆”か」


 蒼銀の刃が、黒槍を断ち割る。

 裂けた槍が時間の砂となって崩れ落ち、風に散った。


 膝を折り、グラーデンは静かに笑う。

 敗北の悔しさではなく、清冽な達観を滲ませて。


「……立派だ。

 英雄ハルヒ。

 おまえは確かに……私の未来を超えた」


 その身体が、黒炎ではなく静かな闇に包まれていく。


「しかし……勘違いするな。

 これで終わりではない」


 血の代わりに黒い時間粒子を零しながら、彼は最後の言葉を告げた。


「真の“時の使者”……

 魔王城でお前を待つ。

 ——その者こそ、時を統べる王の右腕。

 私など、ただの影にすぎぬ」


 闇が彼を包み込み、

 音もなく、知将グラーデンは散った。


 僅かに残ったのは、砕けた時間の残響だけ。


 ハルヒは崩れ落ちそうな身体を気力で支え、

 静かに剣を降ろした。


「……必ず行くさ。

 どんな未来が待ってても——俺たち七人で叩き壊す」


 白銀の光が戦場に広がり、

 七人の英雄たちは、魔王城へ向かって歩き始める。


 新たな“時の戦い”が、ついに始まるのだ。



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