--第64話 逆転の暁
世界が、震えた。
リィナが息を吸う。
ただそれだけで——空気が金と蒼の粒子へとほどけ、
戦場そのものが光の海へ溶け込んでいく。
「……行くよ。ハルヒが繋いだ“未来”を——私の歌で形にする」
リィナの胸から放たれた音は、
音ではなく時間だった。
歌声が戦場に流れた瞬間、
七人の体が淡く輝き、
それぞれの“時間の流れ”が重なり合い始める。
ミリアが驚愕し、眼鏡を押さえる。
「……すごい。リィナの音波が、私たちの神経伝達も反応速度も……
同一時間軸に補正してる!? これはもう戦術じゃなくて……奇跡よ!」
「奇跡じゃないわ」
リィナが微笑む。
「“未来を変える歌”よ」
--時を越えた同期--
七人の視界が統一された。
レオンの視点、ミリアの解析、ユグノアの
俯瞰、セリアの射線、ガルドの地脈の流れ、
リィナの歌、ハルヒの時間感覚——
それらすべてが重なり合い、
七人が“ひとつの意思”のように動き始める。
「行くぞッ!!」
リィナの歌声がみんなを鼓舞する。
レオンの雷神剣が轟き、
放たれた雷斬撃が敵陣を一掃する。
「弱点露出……! 第3装甲層が開くわ!」
ミリアの解析が全員に共有され、
次の瞬間にはセリアが光の矢を放っていた。
ユグノアの魔導盤が戦場を走査。
「北西、罠点3つ。ルート変更だ! レオン、右4歩回り込む!」
「おうよ!!」
ガルドの戦斧グラヴォルテスが地を揺らし、
敵の動線を塞ぐ。
そして——
「ハルヒ、今っ!!」
リィナの歌声がハルヒの体を押し出すように響き、
ハルヒが時空剣を振り抜いた。
瞬間、空間ごと敵兵が切断された。
その動きは、未来予測のさらに“未来”だった。
--漆黒の軍師、動揺--
遠く、黒い軍旗の下でグラーデン=クロウが眼を細めた。
「……馬鹿な」
彼は“未来予測の文書”を重ねていた。
無数の未来分岐が刻まれた黒い石板。
しかし、刻まれた未来の多くが——
白紙化していく。
「歌声が……時間の分岐を“統合”している……?
それは因果に対する暴力だ。
そんな力、世界の層を崩すだけだぞ……!」
初めて、グラーデンの声に焦りが混じった。
--突破の瞬間--
「ユグノア! 次はどこ!?」
「敵の主力、南側に集約する前に突破する! 全員、私が示す“未来ルート”に乗って!」
リィナの歌声がさらに高まり、
七人の動きが翼のように軽くなる。
ハルヒが呟いた。
「……見える。
未来が……ひとつに重なっていく……!」
七人は同時に動いた。
一切の齟齬のない完璧な連携。
——雷と風と地が交差し、
——戦略と光の矢と治癒が旋律を描き、
——ハルヒの時空剣が最後の壁を切り裂く。
閃光が走り、霧のように敵陣が割れた。
「突破っ!!!」
レオンが叫んだ。
黒煙の向こうに広がるのは、
完全に崩壊したグラーデンの陣形だった。
--崩れゆく未来--
グラーデンが片膝をつく。
肩で息をしながら、苦笑した。
「……驚いたよ、英雄たち。
お前たちの未来は……まぶしすぎる」
彼は立ち上がり、黒羽を揺らす。
「だが、忘れるな。
未来を照らす光は——お前の命を削っている」
その視線は、真っ直ぐにハルヒを見ていた。
「禁術を使い、“存在の時間”を捨てたお前の身体は——
すでに崩れ始めている」
--兆候--
ハルヒが一歩踏み出そうとした瞬間。
「……っ!?」
視界が白くかすれ、
足が縺れ、膝が地面に落ちた。
「ハルヒ!?」
リィナが駆け寄る。
彼は目を押さえた。
脳がずれるような痛み。
記憶が……抜け落ちる感覚。
「……あれ……俺……さっき……何を……?」
「ハルヒ……だめ……!」
リィナの声が震えた。
ミリアが険しい顔で言う。
「これは……時間逆流の反動。
あなたの“存在時間”が削られて、
記憶が……欠け始めてる……!」
七人の勝利の中で、
ただひとり——ハルヒだけが崩れ始めていた。
--暗い影の訪れ--
グラーデンの声が、戦場に落ちる。
「さあ、どうする。
英雄を中心に戦うか?
それとも——英雄を守るために戦うか?」
その言葉は、七人の胸を貫いた。
次の瞬間、ユグノアが静かに呟いた。
「……もう、“彼に頼る戦い”は終わりだ。
次からは——
ハルヒを守るための戦術に切り替える」
その言葉に全員が頷いた。
戦いはまだ終わらない。
しかし、未来の形は大きく変わった。




