--第60話 烈火の絆
紅蓮の原野には、まだ炎翼種との空戦の余韻が残っていた。
空は灰を孕んだ赤。大地は焦げ、熱気が地表を揺らす。
しかし――その中心に立つ七人の英雄たちは、迷いなく前を見据えていた。
「……来るよ。第二陣――知将グラーデンの本隊が。」
ユグノアが魔導盤に手を触れると、青い光の陣が広がった。
彼の神器《影眼の盤》は、仲間たちの位置・行動・魔力の流動を解析し、最適化する“思考拡張空間”を展開する。
そこへ――ミリアの眼鏡が淡く輝き、解析情報が重なる。
《敵軍の部隊構成・魔力密度・攻撃パターン》
《地形変動・風流・熱波による魔力干渉》
《七人の行動予測と連携ルート》
ふたつの神器が重なり、“戦術予測”は一瞬で軍略へと昇華した。
「ユグノア……あなたの未来予測、すごい。私の解析、ぜんぶ吸い上げてる……!」
ミリアの声が震える。
「君の解析精度が高いからだよ。これなら――七人の動きは、極限まで連動できる。」
地図のように展開された魔力網の中で、英雄たちの動きが一本の光となって弧を描いた。
レオンが雷神剣を肩に担ぐ。
「つまり――俺たち全員が、同じ“未来”を視るってわけか。」
「そういうことです。」
ユグノアが頷く。
「七人の行動は、もう“戦略”そのもの。あなたの雷、リィナの風、セリアの矢も、すべて未来で重なってます。」
リィナが風を纏いながら微笑む。
「未来で……わたしたち、ちゃんと勝ってる?」
「勝利確率――七十六パーセント。
ただし、**誓いの儀式**を行えば九十を超える。」
その名を聞いた瞬間、七人の胸に灯がともる。
――七人だけの誓い。
――戦場に立つたび、必ず重ねてきた願い。
ハルヒが剣を大地に突き立てた。
時空剣が淡く鳴動し、時の波紋を生む。
「行こう、みんな。
これはただの儀式じゃない……俺たちの“未来を繋ぐ”契約だ。」
七人が円を描き、神器が光を放つ。
雷。風。光。地。治癒。戦略。そして――時。
七色の魔力が一本の柱となって立ち昇る。
「我らは――共に歩む。」
レオンの声が雷鳴のように響いた。
「全ての事柄から護る盾として…」
ガルドの魂が吠える。
「運命を、共に越える。」
セリアが光の矢を掲げる。
「どんな未来が待つとしても……」
リィナが胸に手を当てた。
「知識も、力も、時間でさえ。」
ミリアが眼鏡に触れ、
「互いを繋ぎ、支え合う戦略とする。」
ユグノアが宣言する。
「そして――」
ハルヒの声が静かに落ちる。
「七人の絆によって、未来を切り拓く。」
神器の光が合流した瞬間――
七人の魔力波が重なり、“誓いの儀式”が真価を発揮した。
未来が視える。
敵の陣が透けて見えるほどに、戦局の全てが手に取るように理解できる。
七人全員の動きが、心臓の鼓動のように同期していく。
「……これが……七人の全力……!」
ミリアが息を呑んだ。
ユグノアの声は揺るぎなかった。
「紅蓮の前線は、ここで突破します。
グラーデンがどれほどの知将だろうと関係ありません――
今の七人を、止められる者はいない。」
そのとき――烈火の大地が揺れた。
遠方。
紅蓮の砂煙の中から、漆黒の軍勢がゆっくりと進軍してくる。
無数の魔族兵、その中心には――黒炎を纏った巨体。
「……来たか。」
レオンが剣に雷を纏わせる。
軍勢の最前列に立つ男。
冷酷な瞳。
黒炎を纏う軍服。
その歩みは重く、世界を圧する威圧を持っていた。
魔王軍知将――
グラーデン・クロウ。
その男が、かすかに口角を上げた。
「……誓いの光か。
興味深い。英雄たちよ。
だが、お前たちの“未来”は――私の手のひらだ。」
その瞬間、戦場全体の空気が変わった。
七人は同時に悟った。
――この男は、ただの軍師ではない。
――何かがおかしい。
――“未来”と“因果”が、すでに操作されている。
ユグノアとミリアの顔色が同時に変わる。
「予測が……ズレてる……!」
「未来が……読めない……!?どうして……!」
グラーデンの瞳に、黒い紋様が浮かぶ。
「さあ、英雄たちよ。
“時”の檻へようこそ。」
七人の背筋に冷たいものが走った。
これが――史上最悪の知将。
これが――“時の使者”の影を持つ男。
だが。
ハルヒが一歩前に出た。
「いいだろう……やってやる。」
七人が並び立つ。
その姿は、紅蓮の炎を背に光っていた。
「俺たち七人で――未来を取り戻す。」
烈火の大地が震え、戦端が開かれる。




