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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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53/101

--第53話 喪失の階


 黒塔の第三階層――喪失の階は、冷たく静まり返った空間だった。

 そこには壁も天井もなく、ただ、無数の“空の額縁”が浮遊していた。

 額縁の中には光も影もなく、虚無そのものが映し出されている。


 ハルヒは足を止めた。

「……ここは……何もない……」

 リィナの小さな声が背後から聞こえた。

 しかし、誰もが直感で理解していた。

 この階は、ただ物理的な空間ではない――心の深淵を映す、精神の迷宮だと。


 額縁のひとつに、リィナの姿が映った。

 だがそこには彼女の笑顔はなく、歌声も消えていた。

 無言で手を伸ばすその姿は、まるで未来を喪失したもう一人の自分だった。


 ミリアが杖を掲げ、光を差し込む。

「ここでは、“救えなかった未来”が具現化される……

  過去に縛られた者ほど、出口は遠くなるわ」


 セリアが眉を寄せる。

「……私の額縁には、王国の滅びた未来が映っている」

 彼女の瞳が揺れる。失われた王国の記憶は、王女としての誇りと重なり、心を締め付けた。


 ガルドは額縁を殴りつけ、拳を握りしめる。

「……俺の戦士としての誇りも、誰も守れなかった未来も、全部ここにある……!」


 ハルヒは眉をひそめ、紋章を光らせた。

 時間を読む力――“スキル・タイムスラッシュ”を使い、この虚無に割り込む。

「皆、自分の過去に縛られるな……今、俺たちが生きている“今”を刻むんだ!」


 彼の剣先から白光が溢れ、額縁の虚無を断ち切った。

 しかし、完全に消えたわけではない。

 むしろ、それは彼らの心の奥深くに、確かに残り続けた。


 リィナが小さく口を開く。

「……でも、こんなに痛い未来を見せられても……進むしかないんだね……」

 ハルヒは頷き、彼女の肩に手を置く。

「俺たちは誰も置き去りにしない。だから、立ち止まる必要はない」


 次の瞬間、額縁のひとつが赤い光を放った。

 中には、過去にハルヒが救えなかったはずの幼馴染の姿が映っていた。

 記憶の中で笑う彼の顔は、しかし現実とは微妙に異なっていた。


 セリアがその光景を見て息を飲む。

「……過去は変えられない。でも、今をどう生きるかで、未来は変えられるのね」


 ガルドが頷き、拳を強く握る。

「……俺たちは七人だ。誰一人欠けても、この先には進めない」


 ハルヒは剣を構え、決意を新たにした。

「俺たちは、“喪失”を恐れない。今の時間を刻むために進む――!」


 その瞬間、無数の額縁が一斉に光を放ち、階層の中心に巨大な扉が浮かび上がった。

 扉には黒い渦と逆光の波紋が交錯している。

 まるで、塔の核心――次の試練の入り口が示されているかのようだった。


 ミリアが深く息を吐き、杖を握り直す。

「……ここを越えれば、私たちはもう、過去の呪縛に縛られない。

  でも、最後まで気を抜いては駄目よ」


 ハルヒは紋章を輝かせ、仲間たちを見渡す。

「行くぞ。七人で、この先の核心まで――!」


 七人の足音が、虚無の階に響いた。

 喪失を乗り越えた彼らの歩みだけが、確かな“時の証”となり、塔の奥へと導いていった。



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