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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--第51話 時の迷宮


 黒塔の第一層は、光と影が永遠に揺らめく異界だった。

 天井も壁も存在せず、ただ、漂う光の粒子が果てしなく続いている。

 まるで“時そのもの”が、形を持たず空間として息づいているかのようだった。


 ハルヒは静かに一歩を踏み出す。足元には確かな地面の感触などない。

 それでも――前へ進まなければ、何も変わらない。


 彼の背後には六人の英雄たちがいた。

 剣聖レオンは無言で前方を見据え、獣戦士ガルドは低く唸り、

 聖女ミリアは杖を掲げて周囲の魔素を観察していた。


「ここが……時間の迷宮か」

 セリアが光の弓を握りながら呟く。

 彼女の瞳には、どこまでも続く光の道が映っていた。


「時間の層が幾重にも重なり合っている。

 一歩進むごとに、過去と未来を同時に踏んでいるような感覚……」

 ミリアの声は慎重で、わずかに震えていた。


 リィナが不安そうにハルヒの袖を掴む。

「ハルヒ、見て……同じ道が二つ、いや三つ重なってる……?」


 確かに、彼らの視界には“複数の自分たち”が映っていた。

 数歩先に、同じ姿のハルヒと仲間たちが歩いている。

 そしてさらに遠くには、別の時間の彼らが逆方向へ進んでいた。


「時間の断片か……!」

 ユグノアが目を細める。

「ここでは、あらゆる可能性が同時に存在する。

 選択を誤れば、俺たちは“別の時”に取り込まれるだろう。」


 レオンが剣を抜いた。

「ならば迷うな。道は一つだ。進むべき“今”を信じる。」


 その瞬間――足元の光が砕け、黒い影が溢れ出した。

 それは人の形をしていた。

 いや、“彼ら自身”の姿をした影だった。


「俺たちの……コピー?」

 ガルドが唸るように言い、拳を握りしめる。

 影のガルドが同じように構えた。

 その瞳には感情がない。ただ、時間の残滓が宿っているだけだ。


「この塔は、俺たちの“過去の記録”を具現化しているのかもしれない」

 ハルヒは息を呑みながら、右手に刻まれた刻印 を見つめた。

 淡い光が脈動している――まるで、この空間が彼の存在を識別しているようだった。


「――来るぞ!」

 レオンの声と同時に、光と闇がぶつかり合った。


 剣が鳴り、風が走る。

 ガルドの拳が影を粉砕し、リィナの風が闇を裂く。

 だが、倒しても倒しても、影は無数に現れた。


「きりがない!」

 リィナの声がこだまする。

 時間の海が波打つように、無数の“過去の残響”が形を取り続けていた。


「……やっぱり、これは戦う相手じゃない」

 ハルヒが目を細めた。

 彼の中で、刻印が熱を帯びていく。


 ――“時間の流れ”を読み取れ。

 ――“過去と今”を分ける瞬間を見極めろ。


 声にならない声が、彼の内側で響いた。


 次の瞬間、ハルヒは剣を逆手に構えた。

「――《スキル・タイムスラッシュ》」


 白光が走った。

 時間そのものを断ち切るような一閃が、空間を裂く。

 闇の影たちは、その光の中で一瞬にして霧散した。


 静寂。

 止まっていた時間が、再び動き始める。


「……すごい、ハルヒ……今のは……」

 リィナが小さく息を呑む。

 ハルヒは肩で息をしながら答えた。

「“過去を断つ剣”……ってところかな。まだ制御はできないけど。」


 レオンが口角を上げる。

「よくやった。お前の力がなければ、この迷宮で全滅していた。」


 ミリアが杖を下ろし、光を灯した。

「……ここで試されたのは、力ではなく“記憶”ね。

 自分の過去に囚われる者ほど、この迷宮では道を失う。」


 その言葉に、誰も反論しなかった。

 それぞれが胸の奥で、自分自身の過去を思っていた。

 守れなかった者、失われた時間、言えなかった言葉。


 だが、ハルヒは前を向いた。

「……行こう。迷宮の奥に、“時の核心”があるはずだ。」


 七人は再び歩き出した。

 光と影が交錯する世界で、その歩みだけが確かな“今”を刻んでいた。


 ――そして、その先で待つのは“逆光の試練”。

 時が逆流する、黒塔第二層への扉が、静かに開かれようとしていた。




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