--第50話《時の裂け目 ― 》
黒塔の最上層が、音もなく崩れ落ちた。
それと同時に、天を貫くほどの光柱が立ちのぼり、空を裂いた。
――時間が、砕けていく。
大地の上に、亀裂のような線が走る。
そこから溢れ出したのは、過去でも未来でもない“第三の時”。
それは誰の記憶にも存在しないはずの、断絶された世界。
「これが……“時の裂け目”……」
リィナが呟く。彼女の瞳には、遥か地平にゆらめく光の歪みが映っていた。
「世界の時間が、ねじれ合っている。
この奥が、黒塔の中枢――だ。」
ユグノアが地図を広げ、淡い魔術光で刻印を浮かび上がらせた。
セリアが静かに祈りの姿勢を取る。
「この地に流れる時の痛みは深い。
けれど、それはまだ――癒える可能性があるわ。」
レオンが前へ進み、剣を掲げた。
「俺たちがやるべきことはひとつ。
“時間を取り戻す”んだ。未来を――そして、ハルヒを信じろ!」
風が舞い、光が閃く。
その中央で、ハルヒの刻印が脈打ち始めた。
黄金と蒼が交わるその光は、かつてないほどに鮮烈だった。
「ハルヒ、聞こえるか?」
レオンの声に応えるように、ハルヒは頷いた。
「……ああ。今なら分かる。この刻印は“時間を繋ぐための証”。
そして俺は――“第七の英雄”だ。」
仲間たちが一斉に剣と魔具を掲げる。
七つの光が重なった瞬間、時の裂け目の中央に浮遊階層の門が出現した。
黒い歯車が逆回転を始め、世界の時間が引きずられる。
“過去の戦場”“現在の砦”“未来の廃都”――三つの時代が同時に重なり合う。
「これが黒塔内部……っ!」
リィナが叫ぶ。
彼らはまるで夢と現の境に落ちるように、光の中へと飲み込まれた。
――次の瞬間、全員の視界に三つの影が映る。
一つは、少年の頃の自分。
一つは、今の自分。
そしてもう一つは、まだ見ぬ“未来の自分”。
「試練か……」
ガルドが低く呟く。
「そうだ。黒塔は“時間の試練”。
己がどんな未来を信じるかを試される。」
ユグノアの声は、いつもより静かで、重かった。
その言葉を聞いたハルヒは剣を抜いた。
刻印が光を放つたび、時の欠片が宙に舞う。
その欠片に映るのは、仲間たちの過去の姿――痛みと涙の記憶。
「もう逃げない。
俺はすべてを背負って進む。
時間がどう壊れても、俺たちの絆は壊れない!」
その声と同時に、世界が震えた。
無数の時計塔が浮上し、空間そのものが裏返る。
セリアの祈りが響く。
「――時よ、我らの誓いを記せ!」
七つの光が交差し、“時の迷宮”の扉が開かれる。
そこから吹き荒れる風は、まるで未来そのものが呼吸しているようだった。
ハルヒが振り向き、仲間たちを見た。
「行こう、みんな。ここからが、黒塔攻略の始まりだ!」
レオンが笑う。
「任せろ、ハルヒ。背中は預けたぜ!」
七人の光が塔の奥へと飛び込む。
彼らの影が、裂け目の向こうへと溶けていった。




