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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--第4話「古びた時計」


 朝の光が校舎の窓から差し込み、長い廊下を淡く染めていた。

 聖グラン騎士学院の昇格試験は、午前は模擬戦を、午後は個別課題となっていた。


 ハルヒ・クロノスは、校庭の喧騒を背にしながら、自分の足取りで歩く。

 頭の片隅には、昨日露店で手に入れた奇妙な時計のことがあった。


 小さな金属の塊。文字盤は割れ、針は止まったまま。

 だが、手に取ると微かに振動を感じ、時間の流れが自分だけ違うかのような感覚に襲われる。

 他の生徒には感じられない、妙な存在感――それが、ハルヒの心を掴んで離さなかった。


 「……どういう力なんだ、この時計は」


 手首に握りしめ、彼は歩を進める。

 昇格試験の第一課題――模擬戦用の第一演習場は、校舎の裏手にある広大な訓練フィールドだ。

 そこでは、魔法・スキル・剣技を組み合わせた戦術が、教官によって徹底的に試される。


 校庭を抜けると、早くも仲間の生徒たちが集まっていた。

 火球が舞い、氷柱が立ち、風の刃が走る――午前中の魔法演習とは異なる緊張感が辺りを包む。

 魔法社会の頂点を目指す者たちの視線が、ハルヒに注がれる。


 「……さて、行くか」


 古びた時計を握りしめ、心を整える。

 魔力を失った自分に残されたのは、スキルだけ。

 そして、今日はそのスキルを“見せる日”でもある。



 第一演習場に到着すると、教官の号令が響いた。


 「全生徒、集合! 模擬戦・第一演習場、開始!」


 地面に魔法陣が浮かび、火球や雷撃が飛び交う中、ハルヒは剣を握る。

 魔法を使えない彼にとって、戦場は全て計算の対象だ。


 《反動制御》《瞬動》《視覚拡張》《思考加速》――

 これまで磨き上げた全スキルを、連携させる。


 火球が迫る。彼は剣を振り、炎を斬る。

 氷結の術が地面を覆う。ジャンプで飛び越え、踏み込みながら敵の虚を突く。

 雷撃は、微妙な距離調整でかわす。

 時間のわずかな“歪み”を読み取り、敵の次の行動を先取りする――


 「……これが、俺の戦い方だ」


 誰も理解できない速度と正確さ。

 観客席の生徒たちは息を飲む。

 魔法で圧倒できるはずの相手を、無魔の剣士が完全に制していた。



 休憩中、ハルヒはポーチから時計を取り出した。

 指で文字盤をなぞる。止まった針の下で、微かに振動が続いている。


 「……時間が、微妙に……違う」


 体感として、世界の流れがわずかに変化しているのだ。

 魔法が支配する世界で、スキルだけの自分が、この“時間の歪み”を感じられる――

 それが、どれほど貴重で、どれほど危険なことか、ハルヒはまだ知らない。


 「ハルヒ、何をしているの?」


 幼馴染のセリナの声で我に返る。

 魔法で光る瞳が、心配そうに彼を見つめる。

 だが、ハルヒは軽く笑う。


 「……ちょっと、準備運動さ。午後の演習に備えてな」


 セリナは眉をひそめたが、口には出さない。

 今の彼の集中力と雰囲気を理解できる者は、ほとんどいなかった。


 そして午後の演習が始まる――

 古びた時計が、手の中でわずかに振動する。

 チチ……チチ……と、まるで次の戦いを告げるかのように。


 ――ハルヒの戦いは、すでに始まっていた。



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