表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

39/50

--第39話 帰還の道 ― 白き脱出戦 ―(続)


 ――雪原の風が、すべてを凍らせていた。


 リィナの足がもつれ、白い地面に倒れ込む。

 その手から、淡い光の結晶がこぼれ落ちた。

 彼女の唇が震え、かすかな声が漏れる。


 「……もう、だいじょうぶ……外に、出られたから……」


 「リィナ!? おい、リィナ!」


 ハルヒは雪に膝をつき、彼女の身体を抱き上げた。

 その胸元――微かに灯っていた鼓動が、静かに止まっていく。


 「……嘘だろ……こんなところで……!」


 彼の指先が震える。

 握りしめた掌の中、時の刻印が淡く輝き始めた。

 光の中で、砕けたはずの“時計の針”が形を取り戻す。


 ――聞こえる。

 遠い鐘の音。

 時の歯車が、逆向きに回る音。


 「……戻れ……戻れぇっ!」


 ハルヒの叫びと共に、世界が弾けた。

 雪片が逆流し、崩れた砦の破片が宙へ舞い戻る。

 時間が巻き戻っていく。

 彼の意志だけを軸に、世界が逆再生されていた。


 ――数十秒。

 リィナの倒れる直前へ。


 「ハルヒ、もう少し……!」


 彼女が息を切らしながら笑った瞬間、ハルヒはその手を掴み、叫んだ。

 「もう喋るな! ……俺たちは生きて帰るんだ!」


 そのまま彼はリィナを抱え、最後の力で雪原を駆け抜けた。

 背後では、再び砦が崩れる。だが今度は間に合う――。


 視界の先に、光が見えた。

 それは救援の松明。仲間たちの灯りだった。


 「――ハルヒだ! 生きてるぞ!」


 叫び声が上がる。

 吹雪の向こうから駆け寄ってきたのは、レオン、セリア、ガルド、ユグノア、そしてミリア。

 5人の仲間が雪を蹴り、二人のもとへ辿り着いた。


 ハルヒはリィナを抱きしめたまま、息を荒げていた。

ミリアの治療が間に合った!

 リィナの胸に再び鼓動が戻り、薄く開いた瞳が彼を見つめる。


 「……あったかい……また、戻ってこれたね……」


 ハルヒは答えなかった。

 ただ、彼女の手を強く握りしめる。

 その掌の中で、砕けたはずの時計の針が、静かに時を刻んでいた。


 ――時間は、彼に選ばせたのだ。

 過去を拒むか、未来を紡ぐか。

 その答えを持つ者として。


 白い夜に、鐘の音が響く。

 それは、千年時計の継承者が初めて刻んだ、“時の奇跡”だった。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ