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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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27/52

--第27話「光射す王女セリア ― 王国奪還戦 ―」


 ――同刻、王都アルグレア西門。


 かつて光と祝福に包まれたその都は、いまや黒煙と灰に覆われていた。

 崩れ落ちた聖堂の尖塔、瓦解した白壁。

 地を這う影の軍勢が、王国の象徴を蹂躙していく。


 その最奥、崩れた玉座の間に、二つの光が対峙していた。


 一つは純白。

 残光のように輝く金髪と、虹を映す瞳。

 王女セリア・ノアール。


 そしてもう一つは、闇より深い紅。

 漆黒の甲冑を纏い、血のように赤い魔紋を輝かせる男。

 ――《滅国の将》ベルダイン・ヴァルグロウ。


 「ようやく戻ったか、セリア。

  お前の“光”が、この腐り切った王国を救うと思うか?」


 男の声は低く、鉄を砕くように響く。

 その眼差しには憎悪と、かすかな哀惜が混じっていた。


 セリアは弓を構えた。

 その弓は光装のアビリティーを纏った弓だ。


 かつて、ベルダインが“守るべきもの”として共に誓った。


 「……あなたがこの国を裏切ったとき、私もまた、かつてのあなたを葬りました」

 「ならば――もう迷うこともあるまい」


 黒い炎がベルダインの両腕から噴き出す。

 それは“滅魔因子”と呼ばれる禁忌の力。

 時の王アルディエルの残滓が宿った、破滅の魔。


 「いくぞ、セリア。光がどれほど美しくても、闇は必ずそれを喰らう」

 「闇がどれほど深くとも――光は、届く!」


 次の瞬間、ベルダインの剣と弓矢が交錯した。

 轟音が玉座を裂き、破片が光と影の中を舞った。


 ――閃光。


 セリアの弓矢が天を切り裂き、聖堂のステンドグラスが砕ける。

 そこから射し込む陽光が、戦場に降り注ぐ。


 ベルダインが唸り声をあげる。

 「まだそんな力を……この国の民の祈りか」

 「ええ。彼らの希望が、私の光を絶やさない!」


 光の紋章がセリアの背に浮かぶ。

 天翼のような光輪が広がり、床に散った血と灰が一瞬にして蒸発した。


 ベルダインの口元に歪な笑みが浮かぶ。

 「……まるで、母君そっくりだな。

  あの方も、最後の瞬間まで“希望”を捨てなかった」


 その言葉に、セリアの瞳が鋭く光る。

 「――母を侮辱するな!」


 閃光。

 セリアが一歩踏み込み、空気が爆ぜる。

 光の弓矢が一直線に走り、ベルダインの黒甲冑を貫いた。


 「ぐっ……!」

 膝をつくベルダインの胸から黒煙が漏れる。


 だが――次の瞬間、その煙が逆流し、セリアの腕に絡みついた。

 「なっ……!?」

 「これが、“滅び”だ。

  光が闇を裂いた瞬間、闇は光に喰らいつく。永劫に、な」


 黒い鎖がセリアの身体を締め上げる。

 時間が歪む。

 聖堂の鐘の音が、何度も何度も逆再生される。


 「……まさか、時の残滓……!」

 ベルダインの瞳が紅く輝いた。

 「俺はこの王国を滅ぼすために、“時の王”と契約した。

  過去を焼き尽くし、未来を喰らうためにな」


 セリアの意識が遠のく。

 闇に沈みかけたその瞬間――。


 ――響いた。

 遠く、アルグレアの方角から。

 剣と雷の音。

 そして、あの声。


 「レオン……ハルヒ……!」


 仲間たちの気配を感じた瞬間、セリアの心に微かな熱が宿った。

 その光が、黒の鎖を内側から焼き切っていく。


 「あなたの闇は、もう時代を越えられない。

  私たちの“未来”が、ここから始まるのだから!」


 セリアが再び弓を掲げる。

 光の弓が、まばゆい純白の柱を生み出す。

 ベルダインの影が、その光に溶けて消えた。


 ――轟音。


 崩壊した玉座の上に、光が降り注ぐ。

 焦げた空気の中で、セリアは静かに膝をついた。

 その手にはまだ、弓の温もりがあった。


 彼女は天を仰ぐ。

 砕けた天蓋の向こう、朝日が王都の瓦礫を照らしていた。


 「……終わったのではなく、始まったのね。

  この国を、もう一度“光の国”に戻すために――」


 風が吹く。

 

 それは、時の戦いが新たな段階へ進む合図のようだった。



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