--第22話「戦火の都 アルグレア」
都市アルグレア――
城壁の向こうには、燃え盛る炎と黒煙が渦巻き、戦の悲鳴が絶え間なく響いていた。
戦場の空気は灼熱と硝煙で満たされ、地面には崩れた建物や倒れた兵士の影が散らばる。
「……これは……」
ハルヒは言葉を失う。
騎士学校での模擬戦とは桁違いの惨状。
しかし、その惨状の中に、彼の胸を高鳴らせるものもあった――時の刻印の存在を、戦場で試す絶好の機会。
レオンが前を歩き、剣先を高く掲げた。
「全員、気を引き締めろ。敵は都市全体に潜んでいる。
油断すれば即座に包囲される」
ミリア、リィナ、ガルド、ユグノア、セリア――英雄六人の表情は引き締まり、誰一人として笑みは浮かべていなかった。
「ハルヒ、無理をしないで」
リィナの声が届く。
「力を出し惜しみせず、でも制御を忘れるな」
ハルヒは頷き、剣を握り直す。
(この力を――仲間と都市の命を守るために使う)
都市の中心部に近づくと、魔族兵の姿が目に入った。
黒い甲冑を纏い、獣のような咆哮と共に市街地を駆け抜ける。
兵士たちは混乱し、避け惑う民衆も視界に飛び込む。
「民間人を巻き込むな!」
レオンの声が響き、全員が即座に陣形を整える。
ミリアは治癒魔法を展開し、傷ついた兵士や民を安全圏に誘導する。
「みんな、落ち着いて! 私が守るから!」
その声は力強く、聖なる光を伴って戦場の空間を照らした。
ハルヒは時の刻印を意識する。
剣を構えるたび、視界がわずかに歪み、敵の動きが遅く見える。
――初めて実戦で使う自分の力。
恐怖ではなく、確かな手応えと昂ぶりが胸に広がる。
「よし、進むぞ」
レオンの合図で、六人の英雄とハルヒは市街地に突入した。
瓦礫の間を縫うように進み、魔族兵を斬り伏せる。
ハルヒの刹那の一閃が、戦局を有利に傾ける。
しかし、戦場は混沌としていた。
火の手が迫り、敵の増援も次々に現れる。
その中で、ハルヒは一際強く輝く光に気づいた。
ミリア――治癒と補助魔法を司る聖女。
彼女の手から放たれる光が、傷ついた者たちを包み込み、戦場の緊張を一瞬だけ和らげる。
「ここで、仲間たちを守るのが私の役目」
ミリアは微笑みながら、血まみれの兵士に手をかざす。
光が広がり、瞬く間に傷が癒えていく。
兵士は再び立ち上がり、戦列に戻る。
ハルヒは息を呑む。
(……凄い……この人は戦い方が違う)
光の中で、ミリアの存在はまるで“戦場の聖女”そのものだった。
傷ついた者を救い、戦う者の士気を上げる――その魔法は、力だけでは語れない戦場の要だった。
「ハルヒ、大丈夫?」
ミリアが剣を手に取るハルヒの横顔を覗き込み、柔らかく微笑む。
「はい……やっと、この都市でも力を使えました」
「でも無理はしないで。あなたの力は、まだ未完成だから」
ハルヒは小さく頷き、剣を前に構える。
都市の奥から、新たな魔族の咆哮が聞こえる。
手に浮かぶ刻印――自分の内に眠る力が、微かに熱を帯びて動き出す。
(……俺の力で、戦局を変える……!)
都市アルグレア――戦火の中で、六人の英雄と
時の刻印を抱えた少年は、初めて本格的に力を発
揮する。
刹那の斬撃、光の癒し、仲間との呼吸。
戦場の混沌の中で、時の刻印を抱えた少年は
確かな存在感を示し始めていた。




