--第21話「夜明けの誓い」
東の空が淡く橙色に染まり、戦場に夜明けの光が差し込む。
北方砦の瓦礫と煙が、朝の光に溶けて静かに揺れる。
ハルヒは剣を背に、砦の高台に立っていた。
戦いの疲労は残るが、胸の奥には新しい感覚が満ちていた。
――手に浮かぶ刻印。自分の中に眠る“時の力”が、確かに目覚め始めている。
「よく眠れたか?」
レオンの声が後ろから響く。
振り向けば、六人の英雄たちが揃って立っていた。
朝の光を受け、六人の姿が戦士としての威厳を放つ。
「はい……。なんだか、不思議な気分です」
ハルヒは小さく息を吐き、剣の柄に手をかける。
「昨日、戦場で……初めて力が形になった気がします」
ミリアが微笑みながら近づく。
「見ていたわよ、あなたの一閃。
まだ未熟だけど、確かに“時間の揺らぎ”を操っていた」
リィナも頷く。
「でも……力には責任が伴うわ。
今日からの戦いでは、その力を仲間を守るために使うのよ」
ガルドが腕組みをして呟く。
「力を持つ者は、それだけ戦場で目立つ。
魔族も、お前を狙う可能性が高い」
「……分かっています」
ハルヒは視線を遠くに向ける。
胸の奥の“時”が微かに熱を帯び、剣に呼応している。
戦場で生き延びるためには、力を制御し、仲間と共に戦わなければならない――それが今の自分に課せられた使命だ。
レオンがゆっくりと前に歩み出る。
「さて、誓いの時だ。ハルヒ、お前も一緒に立て」
ハルヒは剣を握り直し、高台に並ぶ。
英雄六人と共に、南方の朝を背に立つその姿は、まだ七番目の影を抱えた少年でありながら、戦士としての覚悟を帯びていた。
「我ら六人の英雄は、この世界の命と時を護る――
そして今、新たな力を得た七番目の者と共に戦うことを誓う」
レオンの言葉に続き、六人が順番に誓いを口にする。
ガルド、リィナ、ミリア、ユグノア、セリア――
それぞれの声が、砦の空に静かに響き渡る。
「俺も誓います――」
ハルヒは剣を掲げ、胸の奥の影に語りかける。
「この力で、仲間を、未来を守る……!」
光が、七人の剣先に集まり、朝の光と共鳴する。
その瞬間、ハルヒの中で七番目の影が小さく震え、確かな意志の形を取り始めた。
「よし、準備は整った。次の戦場は、都アルグレアだ」
レオンが言い、六人の英雄とハルヒは一斉に下山を始める。
砦を離れ、北方平原を越える。
途中、戦場の傷跡が生々しく残る。焼けた樹木、崩れた建物、飛び散る血の跡――
そこを踏み越えながら、ハルヒは思う。
(この戦いの先に、何が待っているのか……)
やがて、遠くに都市の影が見えた。
壁の向こう、塔の尖端が赤く染まり、煙が立ち上っている。
「戦火の都――アルグレアか」
ハルヒが呟く。
リィナが視線を鋭くし、風を読み取る。
「この都、完全に戦場になっているわ……」
ミリアも小さく息を飲む。
「魔族の拠点……。ここで大規模な戦いが起きているはず」
ハルヒは胸に手を当て、時を感じる。
(俺の力……ここで、試される……)
六人の英雄たちも、沈黙のまま都を見据える。
夜明けの光が、彼らの影を長く伸ばす。
そして、ハルヒの中に眠る時の刻印も、都市の戦火を前に小さく震えた。
戦火の都――アルグレア。
七人の英雄と、時の刻印の力を抱えた少年の足音が、静かに、しかし確実に近づいていた。




