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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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19/50

--第19話「戦場での一閃」


 北方戦線。

 空は赤く染まり、煙と灰が混ざった風が戦場を吹き抜ける。

 大地を踏みしめるたび、兵士たちの鎧が鈍く響き、地鳴りのように震えた。


 「敵影、北東より接近! 全軍、構え!」

 レオンの声が戦場の空気を切り裂く。

 砦の守りを固めた人間軍と、魔族兵たちが火花を散らしながら激突する。


 ハルヒは剣を握り、呼吸を整える。

 胸の奥で――心臓の音と共鳴するように、時計が静かに鳴った。


 ――カチリ。


 視界が一瞬歪む。時間の流れが、わずかに遅れたように感じた。

 “あの感覚――間違いない、これが覚醒の兆しだ”

 ハルヒは心の奥で、自分のスキルが新たな形を取り始めたことを理解した。


 突撃してくる魔族兵の一群。

 鎧を纏った巨躯が、地を踏みならしながら迫る。

 通常なら、剣を振るい、斬り伏せる――それだけで手一杯の数だ。


 だが――


 スキル《刹那視界インスタント・サイト》と《時感応クロノ・センス》を同時に起動する。

 視界に残像が生まれ、敵の動きが一瞬止まったように見える。

 “斬るべき瞬間”が、目の前に並ぶ。


 「ここだ……!」

 ハルヒは剣を振り下ろした。


 閃光のごとき一撃。

 斬られた瞬間、敵の時間が歪み、刀傷が空間に溶け込むように広がった。

 魔族兵の列が、一瞬で崩れ、後方に倒れこむ。


 「……!? 何だ、この動きは!」

 魔族兵の指揮官が叫ぶ。

 しかし、次の瞬間、目の前の兵士たちは再び立ち上がった。

 魔族の再生能力――だが、そこにさらなる異変が起きる。


 ハルヒの剣が再び閃く。

 一閃ごとに、時間の流れが“裂ける”。

 再生の速度を上回り、次々と敵を無力化していく。


 「――これが、俺の力!」

 心の奥の“カチリ”が、確かなリズムで響く。

 世界の時間と、自分の意志が共鳴する瞬間。

 それは、一人の剣士としての限界を越えた、新しい戦い方だった。


 周囲の兵士たちも気づき始める。

 “あの剣士、時間を操っている”――と。


 リィナが小さく息を吐き、後方で観察する。

 「すごい……まるで、時間が彼だけ違う速度で流れてるみたい」

 ミリアも頷き、治癒魔法を周囲に展開しながら言う。

 「でも、無理は禁物よ。スキルの消耗が激しいわ」


 戦場の中心、ハルヒの動きは一つの閃光となり、敵の再生を断ち切った。

 敵の指揮官は絶叫する――

 「な、何者だ……!? 時間を……操るのか!?」


 そのとき、北方の空から一陣の風が吹いた。

 遠く、六人の英雄たちの姿が確認できる。

 レオンは微かに笑みを浮かべ、剣を構えたまま戦況を見守る。

 その傍ら、ハルヒの胸の奥に、確かな自信が芽生えた。


 (これが……俺の、眠っていた力――)


 風が吹き、戦場の埃を巻き上げる。

 時間の感覚が鋭く研ぎ澄まされる。

 刹那の一閃が、戦局を変えた瞬間、ハルヒの中で“影”が走る。


 それは、自分でもまだ制御できない未知の存在。

 目覚め始めた“時の力”――


 空の赤と黒が交錯する中、ハルヒはその影を感じた。

 そして心の奥で決意する。


 (……俺は、まだ始まったばかりだ……)


 戦場の轟音が夜空に響き渡る。

 その中で、時の刻印――ハルヒ自身の覚醒は、静かに、しかし確実に動き始めていた。



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