--第155話 樹海国家ロウ=フェン編5 「黒炎の介入」
爆ぜた光の余韻が、まだ空気に残っていた。
焦げた匂い。
焼けた樹皮。
そして――
異質な“熱”。
それは炎ではない。
もっと重く、粘りつくような熱。
黒炎。
ゆらり、と。
空間の裂け目から滲み出るように、影が形を成す。
人の輪郭。
だが、その内部は“空洞”のように揺らいでいる。
「……久しいな」
低く、よく通る声。
耳ではなく、“意識”に直接触れてくる響き。
「時継ぎ――ハルヒ=クロノス」
名を呼ばれた瞬間。
ハルヒの視界が、一瞬だけ“二重”に揺れた。
――千年前の戦場。
――燃え落ちる空。
――崩れゆく仲間。
「……っ!」
歯を食いしばる。
現実へ引き戻す。
「……グラーデン=クロウ」
その名を、吐き捨てるように言う。
影は、わずかに笑った。
「覚えているか」
「忘れるわけがない」
間合いが、縮まる。
誰も動いていないのに。
“距離そのもの”が歪む。
「ならば話は早い」
黒炎が、静かに揺らぐ。
「ここで終わらせるか――」
一拍。
「それとも、“もう一度絶望するか”」
次の瞬間。
消えた。
「――来る!!」
レオニスが叫ぶ。
同時に。
ハルヒの背後。
空間が、裂ける。
黒炎の刃。
だが――
キィンッ!!
弾いた。
時空剣。
まだ完全ではない。
だが、確かに“そこにある”。
「ほう」
クロウの声。
今度は、正面。
「その力……やはり残っていたか」
踏み込む。
ハルヒが。
地面が割れる。
空気が引き裂かれる。
一閃。
空間ごと、斬る。
だが。
“すり抜けた”。
「無駄だ」
背後。
振り返る暇もない。
黒炎が、爆ぜる。
轟音。
衝撃。
ハルヒの身体が、吹き飛ぶ。
「ハルヒ!!」
地面を滑り、木に叩きつけられる。
呼吸が、一瞬止まる。
だが。
「……まだだ」
立ち上がる。
その目は、死んでいない。
「面白い」
クロウが、わずかに興味を示す。
「では――」
指を鳴らす。
黒炎が、拡散する。
無数の影。
それぞれが、同じ気配を持つ。
「分身……!?」
カインが叫ぶ。
「違う!」
ノアが即座に否定する。
「全部“本体”だ!」
「はぁ!?」
理解が追いつかない。
だが。
現実は、待たない。
一斉に来る。
「散開!!」
戦場が、分断される。
レオニスが前に出る。
「来い……!」
指輪が、光る。
雷が走る。
「――アルカディア!!」
王剣が、雷神剣へと変貌する。
雷鳴。
一撃。
黒炎を、断ち切る。
だが。
再生。
「チッ……!」
カインが突っ込む。
「焼き尽くす!!」
炎が爆ぜる。
だが。
黒炎とぶつかり合い、拮抗する。
「効いてねぇ……!」
その時。
風が舞う。
「リィナ!」
歌声。
透き通る旋律。
風精霊が集まり、舞う。
「スピリット・コロナ!」
速度が、上がる。
動きが、加速する。
セレスの光が重なる。
「防御展開!」
ノアが叫ぶ。
「中央に集めるな! 分断して削れ!」
戦場が、動く。
だが。
クロウは、ただ見ている。
「無意味だ」
静かに言う。
「これは戦いではない」
一歩、踏み出す。
その瞬間。
全員の動きが、“遅れる”。
「なっ……!?」
時間が、歪む。
「……これが」
ハルヒが、息を呑む。
「“時の使者”……」
クロウが、こちらを見る。
「そうだ」
「私は、“時そのものの影”」
黒炎が、収束する。
一点へ。
セリアへ。
「やめろ!!」
ハルヒが、駆ける。
だが。
遅い。
黒炎が、彼女に触れる。
「――っ!!」
セリアの身体が、硬直する。
そして。
弓が、完全に変質する。
白銀だったそれが。
“黒く染まる”。
「……これでいい」
クロウが呟く。
「鍵は、まだ閉じておけ」
その瞬間。
ハルヒの中で、何かが“切れる”。
「……ふざけるな」
低い声。
空気が、震える。
時の刻印が、脈動する。
強く。
激しく。
制御を超えて。
「……それ以上」
一歩。
踏み出す。
空間が、歪む。
「触るな」
剣を構える。
それはもう、“未完成”ではなかった。
空間を裂く刃。
時間を断つ力。
「――時空剣」
一閃。
世界が、“止まる”。
黒炎が、断たれる。
クロウの影が、揺らぐ。
「……ほう」
初めて。
“驚き”の気配。
「そこまで至ったか」
だが。
すぐに、笑う。
「だが――まだ浅い」
黒炎が、再び膨張する。
空間が、軋む。
戦場は、限界へと近づく。
そして。
この戦いは。
“次の段階”へと入る。




