--第13話「六人の英雄(シックス・レガリア)」
燃え尽きた戦場を抜ける頃、夜空にはようやく星が戻り始めていた。
黒煙の向こうで風が吹き抜け、焦げた匂いと血の匂いが混じり合う。
その中を、七人の影が静かに進んでいた。
――六人の英雄と、時を越えた異邦の剣士。
崩れかけた砦を抜け、仮設の野営地に辿り着いたとき、
ハルヒは改めてこの時代の現実を実感した。
焚き火の周りで傷ついた兵士がうずくまり、
聖女ミリアが治癒の光を次々と施していく。
その背後では、ユグノアが小声で兵士たちに指示を飛ばし、
セリアが弓を磨きながら周囲を警戒していた。
――戦場で動く者たちの所作に、迷いはなかった。
誰もが“死”を受け入れた上で、それでも生きることを選んでいる。
「おい、新入り。座れ。血の気が引いてるぞ。」
声をかけたのは、ガルド=ベルム。
獣人族特有の低い声と厚い腕が印象的な男だ。
ハルヒは軽く頷き、焚き火の前に腰を下ろした。
「……すげぇな。お前ら、動きが完全に噛み合ってた」
「当たり前だ。俺たちは《六人の英雄》だからな」
ガルドは笑いながら牙を見せた。
「レオンを中心に、それぞれのアビリティで役割を担ってる」
「アビリティ……」
その言葉に、ハルヒは反応した。
彼の時代では、アビリティ保持者は極めて稀で、伝説の存在とされていた。
だが、この時代ではそれが“常識”のように使われている。
焚き火の向こうで、レオンが剣を手入れしていた。
赤く焼けた刃を見つめながら、彼は静かに言う。
「この時代ではな、アビリティが人の価値を決める。
魔法は補助にすぎん。スキルは、凡人の道具だ」
「……魔法が補助?」
ハルヒは思わず問い返した。
自分の知る世界では、魔法こそがすべてだった。
だが、レオンは当然のように頷く。
「アビリティは“生まれ持つ力”だ。
魂に刻まれた才能――それをどれだけ覚醒させるかで、戦場が決まる。
俺たちは、その最先端にいるだけだ」
ミリアが横から口を挟む。
「あなたの時代では、魔法が主流……なのね?」
ハルヒは一瞬、言葉を探した。
“時代が違う”という説明をどう伝えるか分からない。
けれど、彼らの瞳には疑念ではなく、ただ真摯な興味があった。
「……ああ。俺の時代じゃ、アビリティはほとんど伝説扱いだった。
スキルを磨き、魔法を極めるのが普通だったよ」
「なるほどね……」
ミリアはわずかに微笑む。
「なら、あなたがこの時代に現れたのも、意味があるのかもしれないわ。
“時”があなたを選んだのなら」
「時が……俺を?」
ハルヒが呟くと、腕時計の針が小さく震えた。
その音が、まるで応えるように。
*
少女――クロノ・シーアは、治癒魔法の光の中で眠っていた。
その額の“時の紋章”は依然として淡い光を放っている。
「この子の存在は、王都にも報告すべきね」
ユグノアが地図を広げ、短く言う。
「レガリア戦争の中心は北方だが、魔族が“時”を狙う理由があるとすれば――」
「時を……狙う?」
ハルヒが顔を上げる。
ユグノアの瞳が、一瞬だけ鋭く光った。
「千年前、人間と魔族の戦いの裏で、“時間”を操る術が生まれた。
それを封じたのが“時の紋章”……そして、その血筋を継ぐのがこの少女よ」
「つまり、魔族はその力を……奪おうとしている?」
「その通りね。
そして、おそらく――その戦いの渦に、お前も巻き込まれることになる」
ユグノアの声は、静かでありながら確信に満ちていた。
ハルヒは黙って空を見上げる。
夜風が、焚き火の火の粉をさらっていく。
彼の胸の中で、ひとつの確信が形を成していた。
――この時代に来たのは、偶然ではない。
――“時間”そのものが、俺をここに呼んだ。
「……もしそうなら、俺は戦う。
この時代を壊そうとするものがあるなら、それを止めるために」
その言葉に、レオンが笑った。
「いい覚悟だ。なら歓迎しよう――七人目の戦士としてな」
焚き火が、ぱちりと弾けた。
その光が、七人の顔を一瞬照らす。
歴史に刻まれる《第七の英雄》の最初の夜。
そして、ハルヒはまだ知らない。
この世界が、“アビリティーの時代”と呼ばれる所以を――。




