表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

116/117

--第103話 白鋼の子午線 ― 封じられた七人目


 地底墓域のさらに最奥――

 ユグノア=オルディスの封印核が消失した後に残った“深層断層”を、ハルヒとセリナは慎重に進んでいた。


 空気は冷えきっていた。

 水ではなく“記憶”がしみ出すような、奇妙な湿り気が肌を撫でる。


「……ここ、構造がおかしいわ」

 セリナが壁に触れる。

 白鋼の岩肌は、まるで脈動するようにわずかに震えていた。


  生きている。

 ハルヒは直感した。

 この奥にあるものは、ただの封印ではない。


「ユグノアの映像……彼女は最後に言ってた。“六英雄の記録をすべて見た時、七人目が現れる”って」


「七人目の英雄……そんな記録、歴史書にはないわ」


「だから……隠されたんだろうね。時か、あるいは誰かによって」


 ふたりが歩みを進めるにつれ、天井の裂け目から淡い光が漏れ始めた。

 その光は、地上の月光とは明らかに質が違う。

 白銀でも金でもない……“時間そのものの光”だった。


 やがて視界が開けた。


 そこは、巨大な楕円形のホールだった。


 床に刻まれた白鋼の紋章。

 周囲には、六つの台座。

 台座の中心――

 いずれにも、六英雄の象徴が刻まれている。

 だが、それらはどれも中心へ“線”を伸ばしていた。


 白鋼の子午線マーリン・ライン


 六点を結ぶ線は、中央で一点に収束している。


「……これ、封印陣よね。でも、対称性がおかしい。六点なら正六角形のはずなのに……」


「無理やり“七点目”を中心に引き込んだような形だ」


 台座の中心――そこには何もない。

 本来、何かがあったはずだ。

 しかし、その痕跡だけがごっそりと抜け落ちている。


 まるで七人目だけが、一度も存在しなかったかのように。


 その瞬間――


 ホール全体が震えた。

 白鋼の子午線が、淡く、脈を打つ。

 どこからともなく声が響く。


『……記録……削除……不許可……再構築、開始……』


「クロノ=シーア!?」


 セリナが叫ぶ。

 空間の中央に、黒い歪みが現れた。

 ノイズのような、時間の残響。

 その中心から――声が落ちてくる。


『……七人目は……存在してはならない……』


 声は、明らかにクロノ=シーアのもの。

 だが、いつもの冷徹な響きとは違う。

 どこか焦りをはらんでいた。


「どういうこと……? “存在してはならない”って……」


『六英雄ハ……封印ノ器……

 七ツ目ノ器ガ顕レレバ……時界ハ反転……

 我ガ計画ハ……破綻スル……』


 黒い裂け目が脈動し、ホールの子午線の光を吸い込み始める。

 白鋼の床が軋む。


「やめろッ!」


 ハルヒが叫び、時の刻印が手の甲に浮かび上がる。

 その瞬間――

 子午線の中央、“空白の台座”に光が集まり、渦を巻いた。


 光は形を成し始める。


 人影だ。


 しかし完全には見えない。

 輪郭だけが白銀に揺らめき、顔も、性別も分からない。

 ただ、その存在だけが強烈だった。


『……“彼女”ヲ探セ……』


「……!」


 ガルド=ベルムの残影が言っていた言葉と同じだ。

 だが声は違う。

 どこか幼く、そして深い哀しみを孕んでいる。


『ヒトハ……七ツ目ノ器ヲ……忘レタ……

 我ガ意図デハナイ……時ガ……奪ッタノダ……』


 白銀の影がハルヒに顔を向ける。

 その視線だけは、はっきりと伝わってきた。

 懇願、拒絶、怒り、希望――すべてが混ざり合ったような、複雑な力。


『……ハルヒ……キミハ……“彼女”ヲ……見ツケ……』


 声が途切れた。


 次の瞬間、影は激しく揺れ、白銀の光が弾ける。


 ホールを覆っていた黒い裂け目が悲鳴を上げるように震えた。


『停止……排除……七ツ目ノ情報ハ……抹消対象……』


「させないッ!」


 ハルヒが一歩踏み出した瞬間――

 光が収束し、白鋼の子午線が沈黙した。


 黒い裂け目も、影も、声も消えた。


 ただ、子午線の中心に一つだけ――

 小さな“白銀の欠片”が残っていた。


 それは、涙のような形をしていた。


「……これが、七人目の……?」


「分からない。でも、確かに何かが残ったわ」


 セリナが欠片を拾い上げる。

 冷たく、だが脈を持つように鼓動していた。


 ハルヒは静かに息を吸った。


「七人目……。

 六英雄が隠し、クロノ=シーアが消し、時が奪った存在……」


「きっと次の封印が、その答えを示すわ」


 地底墓域の天井から、白い粉塵がふわりと落ちてくる。

 地上へ続く道の先で、微かな風が吹いた。


 新たな導きが、また始まろうとしていた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ