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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--第101話 策士の眠る間 ― 白鋼の嘘と真実

 

 地下墓域の奥へ進むたび、空気は冷たさを増し、光は薄れ、静寂が重く沈んでいった。


 天井から滴る水音――ひとつひとつがやけに大きい。

 灰白色の石壁に刻まれた古戦線の紋章が、魔力の残滓に応じて微かに燐光を放つ。

 だが、そのすべてが、どこか“削られて”いた。


「……この違和感、やっぱり気のせいじゃないわね」


 前を歩くセリナが立ち止まり、石壁に手を添える。

 紋章の外周が、意図的に“削ぎ落とされた”ように見えるのだ。


「ユグノアの封印を守るはずの紋章なのに、誰かが隠そうとしてる……そんな感じがする」


「隠す? 封印を?」


「ええ。この構造、他の英雄の封印領域と違うもの。

 本来なら“中心へ導く”意匠のはずなのに、ここの紋刻は“中心を遠ざける”ように改造されてる」


 セリナの声は、いつになく険しかった。


 ――まるで、ユグノア自身が自らの痕跡を迷路化したように。


 その瞬間、足元の床がふっと揺れた。


「……っ、来るわよ!」


 腐蝕した床石が崩落し、複数の影が闇から這い上がる。

 鎧を纏った兵士の形を保ちながら、しかし輪郭が黒霧に溶けている――


 《戦亡の影兵オブスキュア・レギオン


 古戦線で倒れた兵士たちの残留思念が固まった、墓域特有の魔物だ。


 影兵たちは無音のまま剣を抜き、ハルヒとセリナを囲む。


「――来い!」


 セリナが雷光を纏い、最前の影兵へ突きを放つ。

 しかし刃は霧に抜け、影兵の身体はひと呼吸遅れて実体化する。


「っ……こいつら、実体と非実体が瞬間的に入れ替わってるのか」


「ユグノアらしいわ。策士は“手駒の動きを読ませない”ことを何より重視してた。

 死後でさえ、この墓域を防衛に使っているつもりね」


 ハルヒは深呼吸し、左掌を突き出した。

 指先に淡い時光が集まる。


「……なら、俺が合わせる!」


 “時の刻印”が発光し、空気の流れが一瞬だけ停止する。

 霧が凝固し、影兵の輪郭が“確定”した。


「――今だ、セリナ!」


「任せて!」


 雷刃が奔り、確定した影兵を一閃で断ち切る。

 霧が散り、残りの影兵たちは警戒するように距離を取った。


「やっぱりあなたの刻印、こういう敵に強すぎるわ……」


「良かったのか悪かったのか、ほんと微妙だけどね……」


 短い冗談を交わしつつ、影兵たちが退いた隙を突いて奥へ進む。


 そして、通路の終端――

 白鋼の門が現れた。


 石造りの墓域のなかに、不釣り合いなほど滑らかで金属光沢を帯びた門。

 中央には“鍵穴のない”円環が描かれている。


「……これが、ユグノアの間?」


「ええ。でも、普通の開閉機構じゃない。

 見て、円環の周囲に隠された魔式。多分――」


 セリナが言いかけた瞬間、門の紋刻が脈打つように輝いた。


 微光がハルヒの手元へ吸い寄せられ、彼の刻印が勝手に反応する。


「なっ、勝手に……!」


「待って、まだ触っ――」


 光が爆ぜ、門が音もなく“歪むように”開いた。


 内側に広がっていたのは、祭壇――

 そして、その中央に安置された銀灰色の石棺。


 棺の周囲には、数十もの魔式陣が層を織るように重なり合い、

 まるで“棺自体を情報の殻”にしているようだった。


「この仕掛け……ハルヒ。ユグノアはね、ただ眠っていたんじゃないわ」


 セリナが祭壇へ歩み寄る。


「彼女は、自分の“記録”を偽装している。

 六英雄の中で唯一、過去の情報が極端に少なかった理由……これね」


「記録を……誤魔化してる?」


「ええ。そしてこの層構造……本来の“彼女の真実”を見せないようにしてる」


 その時。


 石棺の表面に、小さなひびが走った。


 乾いた音が墓域全体に反響し、冷たい風が吹き抜ける。


 ハルヒは反射的に一歩退いた。


「……セリナ、これって……」


「封印の“目覚め”。

 ガルド=ベルムの時と同じ……でも、もっと静かで、もっと深い。

 これは策士の封印――“嘘”を剥ぎ取られる瞬間」


 ひびが広がり、石棺の表面が白い光へと変わっていく。


 その光は、怒りでも悲しみでもなく――

 まるで言葉なき問いを投げかけるような、冷静な光だった。


 ユグノア=オルディス。

 六英雄で唯一、“本心を語らなかった”策士。


 その残響が、ついに姿を現そうとしていた。





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