表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

112/115

--第99話 旧戦線跡地下墓域 ― 英雄ユグノアの眠る場所


 かつて戦線だった場所には、奇妙な静寂がこびりついていた。


 王都ルディアから北東へ一日半。

 森林を越え、荒涼の丘陵を抜けた先――草木すら根を張れない灰色の土地が広がる。

 黒く焼けた大地の裂け目が、まるで大陸そのものが負った古傷のように連なっていた。


「ここが……旧戦線跡。六英雄が最後に集った場所のひとつ」


 セリナが呟く声は、自然とひそやかになる。

 風一つ吹かない。音が吸い込まれるような空間。

 ただ、地表に刻まれた巨大な“斬痕”だけが、ここで起きた戦いの規模を物語っていた。


 ハルヒは足元の白い灰をすくい上げた。

 触れた瞬間、指先の奥で“何かの記憶”が震える。


――剣戟。

――悲鳴。

――白鋼の閃光。


 視界に、一瞬だけ別の景色が重なった。


(また……時の残響だ)


「大丈夫?」

 セリナが覗き込む。

「うん……少しだけ、誰かの戦った記憶が視えた。多分、六英雄の誰かの」


 そのときだった。


 地面が、低く鳴った。


 亀裂のあいだから、蒼い紋章が浮かび上がる。

 六英雄共通の“封印紋”。

 しかしここにあるものは、他の紋章とは明らかに異質だった。


 円環の中心に、三角の刃の刻印。

 そこから微かに、冷たい光が滴り落ちるように揺れる。


「……ユグノア=オルディスのものね」


 セリナが息を詰める。

 六英雄――“策士ユグノア”。

 剣ではなく、戦況そのものを操った知略の英雄。

 ただし、その姿や詳細は、やはり何ひとつ残っていない。


「封印、開きかけてる?」


「……ええ。三つが崩れた影響で、この封印も不安定化してる」


 紋章の光が波のように広がる。

 土が崩れ、地面が沈む。

 断崖下の闇に、階段のようなものが姿を現した。


 冷気。

 静寂。

 そして――声にもならない“呼びかけ”の気配。


 ハルヒは喉元に薄い寒気を覚えた。


(……誰かが、待ってる?)


「行こう、セリナ。この下に、ユグノアの封印がある」


「ええ。でも気をつけて。ここ……他より時の乱れが強い」


 地割れの中に続く階段へ足を踏み出した瞬間――。


 風景が“揺れた”。


 灰の大地が、緑の草原へと変わり、

 焼け焦げた空が、晴れわたる蒼穹へ反転する。


 光の粒が舞い、かつての戦線――

 まだ戦争の前の世界へと、一瞬だけ巻き戻る。


 そこで――1人の女性が、丘の上に立っていた。


 長い外套。

 手には折りたたまれた戦術図。

 瞳だけが強い意志を宿し、どこか哀しげに微笑む。


(――誰?)


 ハルヒが息を呑むと、その女性はゆっくりとこちらを振り返った。


 だが――


 次の瞬間、景色は黒灰の地へ戻り、女性の姿はかき消えた。


「今の……」


「まだ“記憶の残像”よ。多分、それがユグノア=オルディス」


 セリナの声は冷静だったが、ほんのわずか震えていた。


 地下への階段はさらに深くへ続く。

 神殿のように整った石壁には、古い戦術符が刻まれ、薄く光っていた。


 その光の向こうから――

 誰かの気配が、確かにハルヒへ届く。


(――来たのね)


 声が、した。


 それは空気の震えでも、耳鳴りでもない。

 ただ胸の奥へ直接届く“言葉”。


(あなたに……託したいことがある)


 ハルヒは立ち止まり、胸元を押さえる。


「ハルヒ?」


「……誰かが、呼んだ。はっきりと」


 その奥――地下墓域の入口がようやく姿を現す。


 半円形の石扉。

 中央にはユグノアの紋章と同じ三角の刻印。

 そして扉の前には、砂に埋もれた“巨大な影”が横たわっていた。


 人影。

 いや――巨人の甲冑。


「これ……まさか」


「ユグノアが率いた“戦略部隊”……の残骸?」


 沈黙。

 風も吹かない墓域の前で、ただ石扉だけが淡く脈動していた。


 ハルヒはゆっくりと手を伸ばす。


 触れた瞬間――

 石扉の刻印が光り、深い闇の底から声があがった。


(――入ってきて)


(“時”の気配を持つ者……あなたなら、届くはず)


 ユグノアの封印が呼んでいる。

 その奥には、これまでの三つの封印とは違う“何か”が待っている。


 ハルヒは深く息を吸い込み、墓域の門を押し開いた。


 静かな闇の向こうへ――

 二人は足を踏み入れた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ