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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--第98話 封印核の覚醒 ― 黒鋼の遺託


 地鳴りが、洞窟神殿の土台そのものを震わせていた。


 戦斧守護者の巨躯が崩れ落ち、黒鋼の結晶が風に還るように散ったあと。

 残されたのは、最奥の祭壇――その中央に埋め込まれた、黒鋼の封印核だった。


 まるで石ではない。

 鉱石でもない。

 光の脈動だけで構成された“心臓”のような球体。


 ハルヒが一歩踏み出すと、核の鼓動が応じるように強まり、足元の紋章が淡く浮かび上がった。


「……動いてる。まるで、私たちを“待ってた”みたい」


 セリナが囁き、慎重に結界を展開する。

 しかし、その結界の膜が、核から漏れる波動に触れた瞬間――ぱん、と小さく弾け飛んだ。


「っ……!?

 魔力を拒絶してる……六英雄の封印、やっぱり普通じゃない」


「うん。風の封印核と……同じ感じだ」


 ハルヒが核にゆっくり手を伸ばす。


 触れた瞬間――

 空間が“裏返った”。



 視界が白く抜け落ち、続いて黒灰の戦場が広がった。

 砕けた城壁。雪のように降り積もる黒耀片。

 そして、巨影たちの咆哮。


 ――これは、記録映像。


 だが、前の二つとは違い、映像の輪郭がほとんど崩れていない。

 六英雄《黒耀のガルド=ベルム》の記憶そのものが、鮮烈な重みをもって流れ込んできた。


 巨躯の戦士が、戦斧を振り下ろしながら叫ぶ。


『――ッ、この戦線は崩させん!!』


 声は確かだった。

 顔は相変わらず“欠けて”いるのに、叫びだけは鮮明に響く。


 セリナの姿はなく、これはハルヒだけが見ている光景。


 ガルド=ベルムは数え切れないほどの魔獣を薙ぎ払い、

 しかし、次の瞬間――空間が“ひしゃげた”。


 紫黒の裂け目が生まれ、そこから無数の“時の砂塵”が流れ込む。


『クロノ=シーア……ッ!』


 彼の声が震える。

 戦場が歪み、倒れ伏す戦士たちの影が“逆再生”のように立ち上がり、

 また別の瞬間には“先の未来”らしき姿で灰となった。


 時が、狂っている。

 その只中で、ガルドだけが――唯一抵抗していた。


『……時の子が来るのか。

 ならば――託すしかあるまい』


 戦斧が地に突き立てられた。

 その衝撃で映像が軋み、崩壊を始める。


『この戦斧の誓いも……黒鋼戦線に倒れた仲間の魂も……

 時が奪おうとするなら――守ってくれ。』


 その言葉と同時に、ガルドの記録は風化した砂のように散った。


 最後だけ、はっきりとした声が残る。


『“彼女”を……守れ。

 それが、時を繋ぐ唯一の道だ……』



「――ッ!」


 ハルヒは現実に引き戻され、息を飲んだ。


 目の前の封印核は淡く輝き、内部の光が“羽根”の形を取っている。

 風の封印核と同じ――いや、それ以上に意味深な形。


 セリナが駆け寄る。


「大丈夫!? 今の……視えたの?」


「うん。ガルド=ベルムの……最後の戦い、みたいな映像だった」


 ハルヒは震える息を整え、続けた。


「そこで、また言われた。“彼女を守れ”って」


「彼女……一体誰のことなの……?」


 セリナは眉を寄せ、周囲の魔力を探るように視線を巡らす。

 そのとき、封印核が“ぱきん”と音を立ててひび割れた。


「っ!? 封印が――」


 光が吹き上がり、黒鋼の粒子が天井へ向けて飛び散る。

 それらは一つの軌道を描き、洞窟の奥――さらに地の底へ続く裂け目へ消えていった。


 まるで次の封印の座標を示す道標のように。


「下層……? ガルド=ベルムよりさらに“深い”封印があるってこと?」


「分からない。でも……核が、そっちに流れていった」


 次の封印、

 六英雄の五人目――《ユグノア=オルディス》。


 地底の戦線跡に眠ると伝えられる、

 “墓域の守護者”とも呼ばれた英雄。


 洞窟の裂け目から吹き上がる風は冷たく、

 そこにかすかな“声”が混じった。


――来て。時の子よ。


 ガルド=ベルムの声ではない。

 もっと古く、深く、静かな声。


 セリナも聞こえたらしく、震える瞳でハルヒを見た。


「……今の、誰?」


「たぶん……次の“英雄”だ」


 風が止む。

 封印核の光は完全に消え、黒鋼の鼓動も消滅した。


 六英雄の封印は――また一つ、崩れた。


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