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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--第90話 風の女王の残響-精霊歌の羽冠


 風歌の森・最奥部《女王なき精霊王庭》


 森を抜ける風に、かすかな光が混じっていた。

 学院へ報告を終えた帰り道――

 **セリア=ノアールの“光の一羽”**が、柔らかい軌跡を描きながら前を滑るように進む。


「……この子、本当に私たちを導いてるのね」

セリナが腕に抱えていた魔導書を整えながらつぶやく。


「意思の断片、だったっけ。

 英雄が残した“道標”みたいなもの……なのかな」

ハルヒは、光の鳥に手を伸ばしてみる。

指先をすり抜け、羽のような感触だけが残った。


 森の奥は、昼なのに薄暗い。

 木々の間をすり抜ける風は“音階”のように高低を変え、

 囁くように何かを伝えている。


「――あ」


 突然、セリナの魔導書が震え、

 勝手にページをめくり始めた。


 ぱら、ぱらら――と紙の舞う音。

 光条が走り、あるページでぴたりと止まる。


《風の呪式篇 第七章 精霊歌との同調》


「強制……展開?」

「セリナ、魔導書が勝手に開くのはいつものこと?」

「ち、違うわよ!? こういう暴走は初めてよ!」


 光の一羽が翼を震わせる。

 まるで“急げ”と告げるように。


 ――そして、森がひらけた。


  リィナの“残響”


 そこは、自然の王座だった。


 半ば崩れた石柱。

 風だけが通り抜ける王冠のような枝葉。

 精霊たちが透明な揺らぎとなって宙を舞う。


 その中央――風が渦を巻き、ひとつの“壁”となる。


 立ち入れぬはずの空間から、声だけが漏れ出した。


  『……我が王庭に、再び来る者よ。

   風は……まだ、泣いている……』


 どこまでも優しいのに、

 確かに疲れを帯びた声。


「これ……リィナ様の声よね」

セリナが静かにつぶやく。


「姿は……ないんだ」

「ええ。封印に取り込まれた“声の残響”。

 本体じゃなく、意思の残り香……そんなところかしら」


 風の壁がわずかに揺れ、

 光の一羽がその内側へ吸い込まれていく。


『……来て、ください。

  風は……孤独に耐えられない……』



 それは、救いを求める声だった。


 羽冠の試練


 次の瞬間――

 風の羽根が四方から舞い降りた。


 白磁のような質感を持つ透明の羽。

 触れた空気ごと音を変える、不思議な素材。


「ハルヒ、来るわよ!」


 羽根たちが二人の周囲を回転し、

 やわらかい結界のような円環を描いた。


 ふっ――と、精霊たちが声をあげる。

 音の粒のような囁き。


「音……に反応してる?」

「どうやら“歌の試練”じゃないわね。

 もっと根源的な……共鳴を求めている」


 セリナの魔導書が定位を始める。

 風の旋律式が、細かいルーンとして浮かび上がる。


「この式……三重奏になってる?

 私だけじゃ、解けない……!」


 その時だった。


 ――ハルヒの腕の“刻印”が、淡く光った。


「また……時の刻印が?」


 光が結界に触れた瞬間、

 風の羽根の回転がゆるりと変わる。

 精霊たちが驚いたようにざわめく。


『……時の位相……? そんなもの、なぜ……この地に……』


 女王の残響が微かにざらつく。


「ハルヒ!」

「うん……わかる。たぶん、俺にも合わせられる」


 セリナが旋律式を歌うように読み上げ、

 ハルヒが刻印の光で位相を重ねていく。


 風が震える。

 囁きが、音階から“歌”へと発展していく。


 ――境界が、ほどかれていく。


 風の女王の最後の囁き


 結界が解け、

 風の渦の奥に、ひとつの光が浮かび上がった。


風の羽冠ウィンドクラウン


 冠というより、

 風と光で編まれた儚い“輪”。


『どうか……最後の“囁き”を、聞いてあげて……』


 風の壁が、ひどく切なげに震えた。


「残響が……消えていく……」


「リィナ様は、ここにもう“いない”のかもしれないわ」


 最後の声が空気に溶けるように薄れていく。


 ハルヒが羽冠に手を伸ばすと、

 光が彼の指先を包み、

 まるで“鍵”として形を固めた。


「これが……封印の間を開く鍵……?」


「ええ。

 そして――王庭が託した、たったひとつの願いよ」


 セリナの声がかすかに震えていた。


「この先に、リィナ様が残した“本当の封印”がある……」


 風歌の森の奥へ、

 新たな風が呼びかける。



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