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千年時計  作者: ちゃぴ
第1章  第1幕 時を紡ぐ時計 

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--    ⑤旅立ち-風歌の森へ


 湖畔の白い光が薄れ、夕映えが森の影を長く伸ばしはじめていた。

 ハルヒたちは崩落した光殿をあとにし、静かな森道を町へ戻っていく。


 騎士候補生の一人が肩を回しながら言った。

「……正直、今日はもう帰ったら倒れる気しかしない」

「むしろ倒れていいから、学院の報告書は手伝えよ」

「やめろ現実を見せるな……!」


 緊張から解き放たれた彼らの声には、疲労と安堵が交じっていた。


 そして――三人の中心で歩くハルヒは、胸に手を添えたままだった。

 封印核へ触れたときの温かさが、まだ消えていない。


《……選んで、くれ……》


 声の主が誰かは分からない。

 だが確かに“祈るような感情”だけは伝わってきた。


 セリナが隣を歩きながら小さく問いかける。

「ねぇハルヒ。まだ、聞こえる……?」

「ううん。でも……残ってるだけ。気のせいかもしれないし」

「気のせいで済ませないほうがいいわ。封印の“声”は、揺らぎそのもの……時を越えて残るなら、あなたが聞く資格を持ってるってことよ」


 “資格”。


 その言葉が少し重く響き、ハルヒは首をすくめた。


 町へ――温もりの帰還


 町の門が見えたころ、陽はすでに沈み、橙色の街灯に火が灯りはじめていた。


「おかえりなさい!」

「訓練場のチームが戻ったぞー!」


 ハルヒたちの姿を確認した町兵たちの声が響く。

 光殿へ向かったのは学院でも“危険任務”の一つ。

 無事に帰るだけでも、町の人々はほっとしたように笑顔を向けてくれた。


 ひとりの女性がセリナに近寄り、籠を差し出す。

「大変だったでしょう。食べなさい、まだ温かいパンよ」

「わぁ……ありがとうございます!」


 パンの香りがふわりと立ちのぼり、疲れが一気に緩む。


 騎士候補生たちも思わず笑みをこぼす。

「やば……泣く……あったかい……」

「俺パンで泣いたの初めてかもしれん……」


 町に帰る――

 そのささやかな温かさに、ハルヒは心の奥がじんわりほどけていくのを感じた。


学院・封印調査局 ― 報告


 学院の奥、封印調査局の一室。

 フォルムの整った水晶板が一列に並び、六英雄の紋章が描かれた巨大な図が壁に映し出されている。


 ハルヒたちは教師兼調査員のエルド・レヴァントの前に立っていた。

 長い銀髪を束ね、眼鏡の奥の瞳が鋭く光る男。


「――なるほど。神殿は沈み、封印核は消失。代わりに“光の小鳥”が次の地点を指し示した……と」


「はい。精霊のようにも見えましたけど、違う気配でした」


 セリナが魔導書を広げ、光殿内部の魔力配列のスケッチを見せる。


「それから……封印核に触れたとき、一瞬だけ声が聞こえました。意味ははっきりしませんが」

「声、か」


 エルドは細く息を吐き、壁の図へ視線を向けた。


 六英雄の紋章が円状に並ぶ――

 しかし、どれも中央に**“欠落”**があるように見える。


「君たちの報告で、六英雄に関する新たな共通点が一つ見えた」


「共通点……?」


 ハルヒが首を傾げると、エルドは指先で紋章の中央をなぞる。


「六人とも、それぞれ武装も役割も性質すら違っている。

 だがすべての記録に――“ある人物”の存在が同時に記されている」


 ハルヒは息をのむ。


「……クロノ=シーア」


 その名を言うと、部屋の空気がわずかに揺れるように感じた。


「そうだ。六英雄と同じ時代に生きて、“封印の起点”を定めた時詠み。

 そして今回の封印でも、記録映像の“欠落”と“時の歪み”が見つかっている」


 エルドは静かに続ける。


「君たちが見た光殿は、おそらく六英雄の旅路を再現した第一地点。

 ならば次の封印――*風歌の森*にも、彼らの足跡とクロノ=シーアの影が残っているはずだ」


「……行くしか、ないね」


 ハルヒの言葉に、セリナと騎士候補生たちがうなずく。


 出発準備 ― 新たな旅路へ


 学院の倉庫では、装備の点検が進む。


「はい、保存食三日分、風魔除けの香草袋、軽装の雨避けマントも」

「助かる、これで森でも動きやすいな」


 セリナは魔導書に新たな栞を挟み、魔力の流れを整える術式を上書きする。

 ハルヒは自分の魔力がまだ少しざわついているのを確認しつつ、深く呼吸した。


「あの声……今度はもっとはっきり聞こえるかもしれない」


 不安ではなく、むしろ不思議な期待が胸に灯る。


  旅立ち ― 森へ向かう風


 学院の門を出ると、夜明け前の空気が澄んでいた。

 東の空にかすかな青い光。


「風が……あっちを示してる」


 そよ風がすっとハルヒの頬を撫で、森の方向へ導くように吹いていく。

 まるで光の小鳥の意思が、まだ残っているかのように。


 「よし、次は“風歌の森”。」

 「精霊たちの庭……それも六英雄の

    リィナ=ヴェルセリアの封印だよね」


 セリナの言葉に、ハルヒはうなずいた。


「行こう。きっと……次で、もっと“真実”に近づける」


 空は淡く光り、地平線は新しい一日を迎えようとしていた。


 2人は朝の風の中、ゆっくりと森へ向けて歩き出す。


 六英雄の旅路。その二つ目の封印へ――。



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