帰郷11
忘れ去る事はしなくても、自分から遠くに遠ざけた記憶を……自分の中で遠い昔にした記憶を思い出す。
「前線基地の生活と違って警報も鳴らなければ、オイルの匂いも器材の匂いもしない安全な世界……制服を着ていない、お洒落な服を着た人達で溢れる街……全てが嘘のような世界……」
「地上に住む人は、みんな、その嘘のような世界を求めているんです……」
「そうっスね……あの時のあの時間は、間違いなく平和な世界だったッス…………運良く準都市に住めた自分達は、平和な世界で生きられるはずだったッス……でも、恐ろしい事は突然やって来たッスよ……」
リナの家の窓から、偽りの空を修復しているを場所を見つめる……それは、この鳥かごの襲撃を受けた時の事と、過去に起きた事が折り重なる。
「その時も空が割れたッス……準都市を守る籠が爆発して……お母さんが、自分達を抱きしめて走ってくれたのを覚えているッス…………お母さんがアネキと自分を抱きしめて必死に走って、軍基地へと連れて行こうとしてくれんスけど……その前に影が立ち塞がったんス」
「影?」
「影ッス……棒人間の頭の部分を取り除いたような影ッス……その影が手を伸ばすと、人が次々と倒れていくんス……お母さんは、その影から逃げようとしたスけど……後は良く分からないッス」
「記憶が曖昧何ですか?」
「子供の時の事で、初めての死との触れ合いだったスから……怖いモノが襲って来たというのは、覚えているスけどね……後で話を聞いたんスけど、自分とアネキを軍施設に連れて行った後、お母さんはパワードスーツを着用して、命の限り影を始末し尽くしたって話らしいッス」
「お母さんの功績があったから、鳥かごに来れたんですか?」
「それもあるかもしれないすスけど、自分達を鳥かごに住めるようにしてくれたのは、リディさんッス」
「……さっきの人ですか」
散々、自分に対して尋問をした人物で印象は非常に悪く、口が滑れば「あんな人が、そんな事をしてくれるんですか?」と口から漏れそうになるので、頬を膨らませて口を真一文字にして紡ぐ。
「リディさんも、随分と嫌われたッスね」
口を真一文字にする凜に、ミィオはケラケラと軽く笑うのであった。




