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ハピネスキュア学園

聖夜に”今夜親居ないんだけど、うち来る?”と言われてついて行った先が王城だった件について

作者: 藍沢 紗智子


「ねぇ! 今夜親居ないんだけど、うち来る?」


 私は思わず目の前の仔犬のような金髪の男の子を二度見しました。ふわふわのショートカットに、エメラルドの瞳が輝く、見るからに良家の仔犬でした。


(これは……カモだわ)


 私は、思わず顔だけは良いと巷で評判のマイフェイスに手を当てました。桃色の髪にハーフツインの髪型をしたお嬢様顔の私ですが、ニヤける口元は隠すほかありません。


「喜んで!」

「わぁい、やった! じゃあ、放課後に迎えにくるから、準備しておいてね」

「えぇ!」


 ここはハピネスキュア学園。王国で一番裕福な貴族の子供達が通う魔法学校です。私、シェリー=マトンは貴族令嬢ではありますが、実は! なんと! 来月に家が没落することが内定しています。これはもう周りの誰にも秘密なのですが、多分きっと覆ったりはしないでしょう。


(家が没落する前に、聖夜のご馳走を食べ納めしたい!)


 今日は聖夜――贅を凝らしたご馳走が各家庭の食卓に並ぶ日です。先程の少年、ミゲル君のお家もご両親が不在とはいえ、さぞかし豪勢な晩餐会をするはずです。


 我が家もきっと晩餐を用意しているでしょうが、私が他家にお呼ばれすれば、お腹を空かせた弟や妹達に少しでも多く食べさせてあげられるでしょう。


 約束の時間の少し前、私はお父様への書き置きをお屋敷の馬車に託しました。


『シェリーは今夜帰りません。良い聖夜を』


 これが、波乱の幕開けになるとも知らずに――。




「まさかシェリーちゃんがこんなに簡単に誘いにのってくれるなんて思いもしなかったなぁ〜」

「私もミゲル君と聖夜を過ごせるなんて思ってなかったわ」

「あはは。それどういう意味〜」


 私達はミゲル君のお家の馬車で和やかな時間を過ごしていました。待ち合わせ場所にやたらと豪華な馬車がお迎えに来たときは驚いたものです。もうすっかり日が落ちるのが早くなっていたので辺りは暗く、全体像は見えなかったのですが、とても私のような没落予定令嬢には似合わない馬車だったのを覚えています。内装だってほら、お尻のクッションがふっかふか!


(もしかして、ミゲル君ってちょっと良いところのおぼっちゃまなのかしら?)


 ミゲル君について、私は多くを知りません。

 ハピネスキュア学園にお兄様が二人いること、とっても愛らしい容姿をしている少年であること、月に何度か学園に現れて私の所属する調理部の活動をしていくこと――そのくらいです。


(きっと、お兄様が学園に通っているからコッソリ遊びに来た弟くんなのね!)


 調理部の活動をしている際は、皆汚れても良いように着替えるので、制服を着ていないミゲル君がしれっと混ざっていても誰も気にはしないのです。


「今夜は危うくぼっちになるところだったんだ。来てくれてありがとう」


 ミゲル君の話によると、ミゲル君のご両親はいつも聖夜はお仕事でご不在とのことでした。


「あら、お兄様が居るのでは?」

「一番上の兄さんは聖夜はもう毎年婚約者とデートする日にしているんだ。だから、二番目の兄さんが毎年一緒に居てくれていたんだけど……少し前に長年の想いが叶って婚約者が出来て。だから、今日は部屋に篭って出てこないと思うよ」

「?」


 どうして婚約者が居ると部屋に篭って出て来ないのか、私にはさっぱりわかりません。


「長年の想いが叶うと言えば――そういえば第二王子が最近婚約されたのよね。私ったら同じ学校に居るはずなのにお顔も知らないわ。ご成婚の際にはさぞかし盛大なパーティーが行われるのでしょうね」


(そして、パーティーといえば美味しいご飯が!)


 じゅるり――と想像だけで垂れそうになったよだれを必死に隠します。家が傾き始めてからの私は調理部の活動以外でご馳走というご馳走に無縁だったのです。


「わぁ、見て! 綺麗!」

「!」


 馬車は聖教の教会の前を通ります。

 魔法で作られたイルミネーションが花や星の形で瞬きました。きっと中では国王陛下や教会の重鎮達が一年の感謝の祈りを捧げているのでしょう。


「国王陛下達は可哀想ね。こんなに綺麗なイルミネーションが見られないなんて!」


 ミゲル君はポソポソと何かを呟いていましたが、私には聞き取れませんでした。


「シェリーちゃん、本当に何にも知らないんだ……」



「わぁ……!」


 ミゲル君のお屋敷は豪華絢爛! この国で一番の豪華さを持っていると言われても信じてしまう程の広くて立派なお屋敷でした。


(デピュタントで踊った王城みたい!)


 外は真っ暗なため、外観は見られなかったけれど、お屋敷の中に入るとお出迎えのメイドさん達がズラリと並んだのには驚かされました。


「おかえりなさいませ、で――」

「皆、今日はミゲルって呼んで。今日は彼女と一緒にお食事したいんだ」

「かしこまりました、ミゲル様」

「?」


 よくわからないのですが、私の晩餐は確約されたようです。この国では七面鳥の丸焼きやピッツァを囲みながらワインを開け、デザートにケーキを食べる風習がありました。


(そういえば淑女としてはミゲル君の家名を聞いて――おかなくていっか⭐︎ 来月には私、平民だし!)


 私はミゲル君のお屋敷について詳しく聞くのを放棄しました。



「はい、乾杯」

「乾杯〜!」


 ミゲル君とシャンメリーで乾杯をします。

 私は学園の1年生! ミゲル君に関してはきっともっと年下でしょうから、アルコールはダメ⭐︎絶対!なのでした。


 私が案内された部屋では、前菜から順にこの世のものとは思えない絶品料理が提供されることとなりました。なんと大きなお皿にちょこんとした量の前菜が15種類!


「このレバーパテをピンクペッパーが引き立ててくれているわよねぇ」

「そうだね〜。はい、いつもの」

「わぁい!」


 私とミゲル君の間には密約があります。それは、食の細いミゲル君のお食事をコッソリと私が食べるということ。調理部の試食時間では上品に見えるよう細心の注意を払ってお皿を交換していたりしますが、ここはミゲル君のホーム。堂々と分け合えるのです。


「いつもシェリーちゃんが食べてくれるから罪悪感なく部活に参加できるんだ。ありがとうね!」

「ふふっ、win-winの関係だから気にしないで」


 ミゲル君は食いしん坊の私には願ったり叶ったりの相棒なのです。スープや魚料理、肉料理(七面鳥)と、国宝級のお料理を私達はそれはそれは堪能しながらいただきました。


(こんなに美味しい料理! 王城クラスだわ!)


 私は思わず胸に手を当てます。


「我が人生に一片の悔いなし!!」

「本当に悔いない? 大丈夫?」

「大丈夫!」



 ケーキがやってくる前には、私達は取り留めのない話を一通り終えていました。部活のこと、食事のこと、難しい話はなしで、私達は穏やかな時間を過ごしていました。


 ふと、ミゲル君が天使のような微笑みで私を見つめました。


「僕、聖夜にシェリーちゃんと一緒に過ごせて幸せだったよ」

「!」


 その瞬間、少しだけ胸がドキンと鳴りました。


(????)


 ミゲル君は私より背が低くて、手足の細い年下の男の子です。きっと四、五歳は私よりも年齢が低いことでしょう。


(私よりも年下なのにこんな女の子を悩殺するラブリースマイルが出来るなんて――! 将来が恐ろしい子っ!)


 私はお金持ちで身分が高くて見た目も可愛い上に中身もラブリーなミゲル君の将来は安泰だなと謎の目線で微笑み返しました。


「ねぇ、また二人で会ってくれる?」


 この質問には、曖昧に笑うことで応えました。


(私、本当はこれでミゲル君も見納めになるのよね)


 ハピネスキュア学園で仲の良い友達達にすら没落の件は何も言うことが出来ずにいました。ミゲル君にも、勿論何も言っておりません。本年最後の部活も終えています。ですから、彼と会うのもこれで最後。だから、約束なんて出来るはずも――。


 その時です。


「ゴホッ、ゴホッ」


 ミゲル君が突然苦しみ出しました。

 咳が止まらない模様です。テーブルに臥すように倒れ込むミゲル君を私は支え、背中をさすります。


「ミゲル君っ!! 誰かーっ!!」



「大丈夫……?」


 ここはミゲル君の私室でした。天蓋付きのベッドは金糸で刺繍がされており、やはり資金力を感じます。壁紙も見たこともないデラすごい奴です。後、犬! 小さい犬が居ました。名前はベスだそうです。

 青白い顔のミゲル君はコクリと小さく頷きました。


 因みにこの部屋に入るのは何度か執事の方に止められたのですが、ご両親が不在の中、このような幼い子を一人で寝かせるわけにはいきません! 私は強行突破する形で無理矢理押し入っております。


(なんていったって私は! 来月には平民!)


 今更どこの誰に咎められたところで痛くも痒くもないのです。


「私が手を握っていてあげるから、安心して眠って」

「あの、シェリーちゃんは多分勘違いしてるけど、僕……」

「気にしないで。私はもう、全然平気だから」

「そ、そう……?」


 ミゲル君は最初こそ謎の抵抗を見せましたが、私が手を握りながら頭を撫でると、すぐにスヤスヤと寝息を立てて眠ったのでした。ベスもまたミゲル君のお腹の上で丸まります。



「ミゲル君は眠っているわ。私、帰るから、あとは宜しくね」

「はい、シェリー様」


 数刻後――私がミゲル君の私室を後にすると、執事の方がなんと帰りの馬車まで用意をしてくれていました。至れり尽くせり、まるで国賓のような扱いです。


 行き同様のふかふかの座面の馬車に揺られながら、私はふと大事なことを思い出します。


「ケーキ……食べ損ねたわ……」


 きっとこれまた国宝級の立派なケーキが出てくるはずだったのでしょう。しかし、これは明日の朝目覚めたミゲル君に全て食して貰う他ありません。


(おやすみ、そしてさようなら。ミゲル君――)


 進行方向とは逆の方向を向くと、魔法でライトアップされた見たことのあるお城。


(あれ……? ここ、王城だったんじゃ?)


 私は何度か目を擦り――何も見なかったことにしました。




「家が――ない!?」


 何を言っているかわからないかもしれませんが、私も何を言っているのかわかりません。


 ただ一つ、長女の私から言えることは『親が抜けている性格をしているのであれば、一生そのことを忘れるな!』です。


 我が家だったお屋敷の門には大きな「売家」と書かれた看板。深夜にも関わらず、電気一つついておりません。門の前に1通の手紙が置いていました。私はカサカサとそれを開きます。


『親愛なるシェリーへ。この手紙を君が読む頃、私達は家に居ないでしょう。貴族生活最後に過ごす聖夜の筈なのに、シェリーが帰ってこない。そんな悲しみに心が張り裂け、パパは早めに一家離散することにしました。大人になると何事も10分前行動が基本と言われるものです。今月もあと6日しかないので、早めに破産しても良いでしょう。嘘です。本当は早めに取り立てがきちゃった⭐︎ 二年後にシャボンディ諸島で会おう。幸運を祈る――」


「……。」


 私は夜空に浮かぶお父様の曲がったヒゲ面を見上げました。


(マトン家没落ーーッ!!)


 何かが起きていると察してくれた馬車の御者さんが心配そうにこちらを見ます。


「あの、本当にここで……?」

「えぇ、仕方がありません」


 私は貴族令嬢としての最後を飾るべく優雅に一礼をしました。


「もうお会いすることはないでしょうが、シェリーはずっとミゲル様の幸せを祈っているとお伝えください」



 それからの三年間は――本当に大変な日々でした。


 まず、当日も眠るところがなく、無一文の私は深夜の酒場に行きました。そこで、調理部で磨いた料理スキルを売り込み、厨房の仕事を見習いからやらせてもらいます。

 眠るところがなかったので、帰ったふりをしてお店で寝泊まりをしていたら一ヶ月でバレて追い出されました。


 僅かなお給金と社会経験を手に、転々と場所や職を替えました。転職の軸は『料理に関わること』。そう、私は一端の料理人としてのスキルを学んでいったのです。


(私には美味しいものがわかる舌がある! あとはこの舌がうなるほどの料理を作るだけ!)


 貴族令嬢としての私はとても優等生ではありませんでした。礼儀はイマイチ、勉学もイマイチ。ですが、食への積極性とどこへでも突撃できる厚顔無恥さだけは誰にも負けません。


 自慢の艶々の桃色の髪は、次第に元気をなくしていきましたが、私の技術力はメキメキと上がっていきました。


 私の目指した料理には二種類の方向性がありました。


 一つ目は、単純に美味しい料理です。美味しさはすなわち正義。誰であろうと美味しい料理を厭う者はおりません。そして、何よりもお金になるのはこの料理でした。


 二つ目は、食の細い人、体調が悪い人でも食べやすい料理の開発です。お粥やスープを中心に咀嚼しやすくて滋養のある料理を開発していきました。


(ミゲル君のような人にも食べてもらいたいよね!)


 ある時、置いてもらっていたおしゃれな創作料理店――騾馬亭で私の考案した『シェリースープ』が爆発的にヒットしました。味よし、栄養よし、見た目よしの自信作です。


 騾馬亭はいつも満員御礼! 私は一躍王都でも忙しい部類の料理人になったのでした。


「シェリー、君にならこのお店を継がせられる」

「店長が死んだら貰おうかな〜」

「縁起でもないこと言うな!」


 毎日は忙しいですが、とても充実していました。



(もう、聖夜かぁ――)


 家が没落してから四年目になる日。

 今日も騾馬亭は予約でいっぱいでした。しかも、恋人達だらけです。学園で生徒をした頃には知らなかったことですが、どうやらこの聖夜というのは家族だけでなく恋人達が過ごす風習もあるということでした。


(ミゲル君、いや。ミゲル様元気かな)


 やはりあの時連れて行かれたのが王城だと知ったのは二年前のことでした。忙しい毎日の中で、ふと王城の近くに立ち寄ることがあったのです。私が全然興味がなかっただけで、この国には第三王子が存在しているということでした。第一王子と第二王子の存在感がテラやばくて、露出の少ない第三王子――ミゲル様については私は全然知らなかったのです。


 第三王子にはエリザベスという婚約者が居るとの噂です。


(ミゲル君、タラシの才能あるから上手くやってるだろうな)


 一生に一度あるかないかの良い思いをした――そう思い返しながら、私は騾馬亭のお店の明かりを消そうとします。その時でした。


「やっと……見つけた!!」


 私は寒空の下、鼻まで真っ赤にしている背の高い青年に手を握られたのでした。イケメンで多分貴族の知らない人です。私は冷静に微笑んでお返事をします。


「ロマンス詐欺は間に合ってるので」


 しかし! 私のかわしスキルは彼には通用しませんでした。


「この桃色髪の美人さん。シェリーちゃん、シェリーちゃんでしょ!」

「もうこの手のナンパには飽き飽きしています。なんせ、私、顔だけは割といいので!」

「この発言が斜め上な感じ、やっぱりシェリーちゃんだ〜、会いたかったよぉ〜!」


 私も私ですが、彼も彼で話が全く噛み合いません。


(発言は幼いのに声低っ!)


 彼の外見をよく見ると、ふわふわの金髪にイケイケメンメンのフェイス、エメラルドの瞳に人懐っこい笑顔。仔犬ではなく大型犬のような高さのある身長です。


(……? どことなくミゲル君の面影があるような……ないような……)


 確かにこの発言。もしもミゲル君が大きくなっていたら言いそうなセリフではあります。しかし、ミゲル君は私よりも遥かに年下。こんなに大きくなるわけが――


「君、何歳?」

「19歳!」


(ほな、ミゲル君と違うかぁ)


 しかし、目の前の彼は私の手を離しません。いえ、離さないどころかぎゅうっと抱きしめて来たほどです。


「シェリーちゃんはずっと勘違いしてたと思うんだけど、僕達同い年だからね。身体が弱くて殆ど授業に出られなかったけど、同じクラスだったからね」

「まるでミゲル君のような台詞!」

「……本人だけど」


 私は固まります。


「婚約者が居るのに他の女に抱き付く倫理観の無さ、王族としてアウトではっ!」


 私は酒場で聞いた話を思い出しました。ミゲル君の兄である第二王子には脱衣(させる方)癖があり、婚約者の方に告白する前に色々とアハーンだったという噂です。純愛だと聞いていたのに、色々裏切られた気持ちになりました。第一王子もスキャンダルを聞いた覚えがありますし、これはもう。


(この国の王族、ダメかもしれない――)


 私は満天の星が輝く夜空を見上げます。


 しかし、ミゲル君(成長済)はぷくーっと頬を膨らませると、後ろを振り向きます。


「……あぁ、あの婚約者の噂ね! おいで、ベス!」

『きゃん!』


 甲高い声で返事をしたのは美人のエリザベス嬢――ではなく、愛犬のベスでした。ベスは私の足元でスリスリしてきます。


「あの時の室内犬!」

「僕はね、”身体が弱いから婚約者を見繕うと相手が可哀想だ。仲のいい犬でも婚約者と言っておけ”ってずーっとバカにされ続けてたんだ。でも、シェリーちゃんのお陰で変わろうと思えた」

「? 私?」


 私は何かしたでしょうか。

 全く心当たりがありません。


「わかる? 聖夜に気になる女の子を誘ったら、途中で力尽きて倒れてしまう自分への不甲斐なさ。しかも、寝室まで来てくれたのに、気が付いたら帰ってて、翌日には”もう会うことはない”って告げられてるの。シェリーちゃん、学園にも来なくなってたし、そもそもお家もなくなってたんだよね」


 なんだか、謎の黒い圧を感じます。


「まぁ、ほら、私は最後の晩餐を楽しみたかっただけだったから――」

「うんうん、シェリーちゃんは実家がよくない状況だって知ってて、僕に相談したいとか頼りたいとかち〜っとも思わなかったんだよね。僕が年下で病弱で頼りないって思ってたんだよね。わかるよ」


 発言に棘があるように感じますが、どうしてなのでしょうか。なんにせよ、ミゲル君は体質を変えるべくこの四年で大変な努力をしたとのことでした。


「大丈夫、ご両親もきょうだいもみ〜んな見つけておいたから。明日には会わせてあげるね。身分だってちゃんと戻してあげる」

「あら、お父様達見つかったの!」

「うん、シェリーちゃんが一番最後だったんだ。まさか自分がよく王城で食べさせられてるメニューを開発したのがシェリーちゃんだったなんてね」


 なんと、私のメニューはいつしか王城で提供されるものにも採用されていたのです。これは、ここ数年の頑張りが実を結んでいたと言っても過言ではないでしょう。それもこれも、ミゲル君が王城の聖夜の晩餐を私の舌にあじあわせてくれたお陰です。


 いつの間にか、ミゲル君についていたらしいお付きの人が店長に話をしていたらしく、私の荷物が運ばれていました。店長はなんとも言えない顔をしています。口パクはきっとこうです。


(? 大変だろうけどがんばれ? 達者でな?)


 ミゲル君は私を抱きしめたまま、こう囁きます。


「今夜もね、親が居ないんだけど……うちに来てもらうよ」


 きっと国王陛下は今夜もまた祈りの時間でしょう。謎の色香を身に付けたミゲル君は新鮮な感じがしますが、また友人として彼に会えるのはとっても良いことです。


(また王城の素敵メニューが食べられる!)


「今度はとびっきりのケーキも食べさせてね!」


 大きくなったミゲル君は怪しく微笑みました。




ーーおわり

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