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勇者、煩悶する

ある日、唐突にリュートに部屋から出る事を許可された。突然のことにとても驚いたが理由は「ひろ○ゆき曰く、お前ら人間は太陽の光を浴びないと気分が落ち込んだり憂鬱になるらしいからな。たまには監視付きで外に出してやる」とのこと。ひろ○きって誰だ?って思いながらも俺は久方ぶりの外出を満喫することにした。ありがとう、ひろ○きさん。

とは言ったものの足を運んだ先は城の外ではなく、城の中庭だった。なんだ……と少しガッカリしたが、まあ、外には変わりは無い。それに部屋の外に出られただけでも大きな1歩と捉えよう。

中庭は思ったより広くて手入れがされていて季節の花々が美しく咲き誇っている。上を見上げれば数週間ぶりの青々とした空が広がっていた。

そして俺は現在リュートの後ろについて行き、この間散々聞かされた中庭の菜園を見せられているところだった。


「これが前回話に出たスイカ味のかぼちゃだ」


「は、はぁ……」


俺の知ってるスイカやかぼちゃと柄が全く違うような……。


そのかぼちゃ(?)は明らかに食べられるような色、柄ではなかった。こんなに表面が真っ赤で白のドット柄が施されたものが食べ物であっていいのか迷う。

しかし俺はそんな事を考えつつも実は他のことに気を取られていた。多分頭の6割ほどはそっちの事を考えていると言っても過言では無い。その事とはつい数日前のあの事件である。


ミオ・フロースド、19歳。宿敵にデコチューをされる。


そう、これだ。これしかない。(読者にとってもこれしかないと思っている。)俺はコイツが隣に居る度にあのシーンのことを常に頭の片隅で思い返している。それを考えるだけで俺はまた顔が赤くなりそうになる。今もリュートから意味の分からない野菜の説明を受けつつも気恥ずかしくなっていた。


お、落ち着け俺……。確かにキスはとても神聖で特別な事だが別に唇にされた訳じゃないし……。リュートだってあの日からいつも通りで何もしてこないしべべべべ別に変な意味があったりとかそういうんじゃないと思うしいやでも俺を嫁に欲しいとか言ってる地点で変だけどそれでもそそそそんな恥じらうことではなi……。


「おい、聞いてるのか?」


不意にリュートは俺の顔を覗くように見つめる。


「…………!」


俺は何故か焦って自分の額に手を当てる。


「なんだ?頭痛いのか?」


「ち、違います!」


「なんで敬語?」


「別にいいだろ…!」


俺は顔を逸らす。ここ数日はこの必殺・顔逸らしでなんとか自分の気持ちをコントロールしてきた。が、今日のリュートはしつこく俺の顔を見ようと移動してきた。


「なんで!?やめろよ!」


「やめろってなにがだよ?」


俺はまた顔を逸らしたため顔は見えていないが明らかに言葉に笑いが含まれている。今顔を見たら絶対にニヤついているリュートが目に映るだろう。


なんなんだよこいつ……!人の気も知らないで……!


「人の気も知らないで、なんて考えてるだろ?」


「えっ!?」


思わず顔を上げてしまい、リュートの顔面を直視してしまう。するとやはり言わずもがなニヤニヤした顔がそこにはあった。


「なんっ!?なんで……!なんでそんな事わかるんだよ……!」


「普通にわかるだろ、ここ数日のお前見てれば。つーかその言葉ってほぼ自白してんのと一緒だろ」


「なっ……!」


俺は見る見る顔が赤くなるのが自分でも分かった。


「わー、お顔が大層真っ赤なことで。そんなにこの間のキスが効いてるとはな」


バレてる……めちゃクソバレてる……!


最早何を言ってもどツボにハマるような気がして仕方ない。俺は情けないが少し涙目になっていた。


「あんな事ごときでそんな情けねえ面になるとはなあ?ウブで可愛いな(笑)」


「くっ……!殺せ……!」


「出ました『くっ殺』。それ女剣士が言うやつな」


「うるせえ!お前が!お前が悪いのになんで俺がこんな色々と考えなきゃならないんだよ!ふざけんな!」


「俺様何も悪くないもんねー。むしろここまで手を出してないのを感謝して欲しいくらいだ」


「なにも感謝なんかする事された覚えなんかないんだよ!このっ……バーカ!」


ついカッとなって小学生みたいな罵り方をしてしまった。またなんかリュートに言われる、と思ったが何故か何も言ってこない。


「…………」


しばし沈黙が続く。


……あれ?もしかしてバカって言われて傷ついた?


そんな風に思っているとリュートの大きな両手が俺の顔を包んだ。と、思った瞬間その両手はガッチリと力が込められ、俺の顔はリュートの顔しか見れないように固定される。


え!?なになになに!?


「お前、今俺に感謝されるようなことはされてないと言ったな……?」


え、そっち!?


リュートは表情は笑っているが目が笑ってない。完全に目が据わっている。これはヤバイやつだ。


「あの、リュートさん……?」


「お前はどうやら俺がどれだけ優しくてどれだけ我慢強くてどれだけクソデカ感情を抱いているか分からないようだな……?」


「ちょっと落ち着いて……ね?」


俺はリュートの腕を掴み引き剥がそうとするが案の定ビクともしない。


「今更何を言っても無駄だ」


「あ、あのほら!確かにお前には傷が治るまで世話にはなったし外にも連れ出してくれてその点に関しては感謝しないでもn……」


「うるせえ口だな。もう物理的に黙らせてやるよ」


リュートは右左も動かせない俺の顔にどんどん自分の顔を近づける。


「え!?なに!?やめ……!」


「なにってもう分かるだろ。お前にキスする。皆まで言わなくてもそれくらい察しろよ鈍感勇者。」


「なっ!?キっ……!?」


やばい!早く手を振りほどかなければ!


そんな事を考えている時にはもうリュートの唇が触れる目前であった。


なんでこんな……!もうこれは……いやでも……でもおおおお!


「そんな……それって……そんな事してっ……!」


混乱する脳みそで色んなことを考えたか考えないかで俺は大声で叫んだ。


「そんな事して俺が妊娠したらどうするんだああああああ!」

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