冥土を追う影
夜明け前、廃墟となった村の隠れ家。
ハクヤたちは薄暗い部屋の中で地図を広げ、今後の行動を話し合っていた。
冥土の本拠地に戻り、エイゼを救い出すためには、戦力を整えなければならない。
「つまりよ、冥土を潰すにはまず奴らの拠点を正確に突き止め、少しずつ戦力を削ぐってわけか……。」
ガルツが地図を指でなぞりながら言った。彼は元銃兵士だけあって、戦略には長けている。
「それだけじゃないよ。冥土は各地に拠点を持ってるし、資金源や協力者も多い。単に突っ込むだけじゃ勝ち目はないね。」
レイラが静かに言いながら、治療道具を整理している。彼女の青い瞳が不安げに揺れていた。
「……力ずくで突破すればいいだけの話だろう?」
ザハークが腕を組みながら低く唸る。彼の人狼としての力は強大だが、それだけでは勝てないことを彼自身も理解している。
「俺たちだけじゃ足りねぇ。仲間を増やす必要がある。」
ハクヤが剣を膝の上に置きながら言った。
「冥土のやり方に不満を持ってる兵士や、俺たちと同じように奴らに苦しめられた連中なら、共闘してくれるかもしれない。」
「……エイゼさんのために?」
レイラが小さく尋ねる。
「まあ、それもあるが……それだけじゃない。冥土がやってることをこれ以上放置できない。」
ハクヤは拳を握りしめる。
「エイゼは俺に『ここに来るべきじゃなかった』と言った。だが、もう遅い。俺はここにいる。知ってしまった以上、黙ってはいられない。」
ガルツが笑みを浮かべ、銃を手に取った。
「いいじゃねぇか、ボウズ。だったら、とことんやろうぜ。冥土に地獄を見せてやる。」
「賛成!ボクも冥土の連中には恨みがあるし、エイゼさんにも恩があるんだ。」
レイラが頷く。
「……俺も協力する。ただし、手加減はしない。」
ザハークが獣のような鋭い視線で言った。
ハクヤは仲間たちを見渡し、深く息を吸い込んだ。
「よし、決まりだ。まずは戦力を増やすために、冥土に恨みを持つ者たちを探そう。」
こうして、ハクヤたちの旅が始まった。
エイゼを救い出し、冥土を打ち砕くために──。
ハクヤ、ガルツ、レイラ、ザハークの四人は、冥土の拠点や関係者の情報を探るため、国のあちこちを移動していた。冥土の勢力は広く、彼らの動きは慎重にならざるを得なかった。
「……しかし、こうも静かだと逆に気味が悪いな。」
ガルツが呟きながら、銃の装填を確認する。
「ああ、たしかにな。冥土が俺たちを追ってこないはずがないよな……妙だな。」
ハクヤは剣の柄を握りながら辺りを警戒した。
「まだ逃げ出したことに気づいてないんじゃないの?」
レイラはそう言いながら、長い髪をかき上げる。
「……いや、それはない。俺の感覚が正しければ……俺たちはすでに見張られている。」
ザハークが鼻を鳴らし、低く唸った。
その言葉にハクヤたちは身構える。
──次の瞬間。
木々の間から矢が飛び出し、ハクヤの肩をかすめて突き刺さった。
「伏せろ!」
ガルツが叫び、即座に銃を構える。
「やっぱり来たか……!」
ハクヤは剣を抜き、周囲を見渡した。
木々の間から、白い装束の兵士たちが現れる。冥土の追っ手だった。
「逃亡者、ハクヤ。そして検体ナンバーA102、C312、元雑兵。お前たちにはここで死んでもらう!」
「……お前らの命令なんか、聞く義理はねぇよ。」
ハクヤは剣を構え、冷たく言い放った。
敵は迷いなく襲いかかってきた。
──戦いが、始まる。