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焔翼のグリフォン  作者: いねの
第二部 第2章 灯の寮と忍者
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這い寄る影

その頃、冥土本部。

兵舎の廊下は朝の点呼前からざわついていた。蛍光灯の白に、囁きが薄く渦を巻く。


「聞いたか――一日で退団したやつがいる。」

「しかも実験体だってよ。」

「名前は……ハクヤ・ヴェルネ。」

「初日に生物兵器に絡まれてた、あの新顔か?」

「髪はボサっとしてて、やたらクールぶってたあいつだよ。」


靴音が交錯し、噂は次の区画へ滑っていく。


 最上層、強化ガラスの扉の向こう。白衣の男・リンドウは、白髪まじりの前髪を汗で貼りつかせ、巨大な背に頭を下げていた。

背の主――最高司令官にして創設者、アルマゲドン。黒い外套の肩がかすかに動くたび、室内の空気が硬くなる。


「報告は以上です、最高司令――。」


大男は一言のためにだけ口を開いた。


「……ならば、連れ戻せば良い。それだけのことだ。」


踵を返し、無言で去る。扉が閉まる音が、判決だった。


静寂のあと、リンドウの奥歯がきしむ。こめかみの血管が浮き、背後の端末群へ怒声が落ちた。


「聞いたな。回収指令だ――対象003(アビス)006(エイゼ)007(ハクヤ)、特例指定。生存優先、不能なら素材回収!強化兵は増員だ。等級は問わん、AでもBでもいい、質より量で押し潰せ!監視網を南と東へ拡張、協力機関にも通達。足跡、噂、医薬の購入記録――影でも匂いでも拾え!」


部下たちが一斉に端末へ散る。印字音、通信音、武装ラックの解錠音が重なった。


リンドウは薄いモニタに浮かぶ若い顔写真を睨みつけ、冷えた指で画面をなぞる。


「――007。お前の“価値”は、ここで決まる。」


 彼の声は静かだったが、室内の温度だけが、わずかに下がった。

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