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焔翼のグリフォン  作者: いねの
第一部 旅立ちと決意 第1章 冥土を背に
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逃亡の夜

 鋼鉄の扉が爆音とともに吹き飛び、煙と火花が散る中、エイゼは鋭い琥珀色の瞳で前方を見据えていた。

その背には、意識を失ったハクヤの姿。


「しっかりしろ、ハクヤ……お前はこんなところで死ぬべきじゃない。」


エイゼは、気を失ったハクヤを背負いながら、研究区画の暗い通路を駆け抜けた。

先ほどまでの戦闘で負った傷が体に重くのしかかるが、それでも足を止めるわけにはいかない。

後方では、冥土の警備兵たちが次々と配置につき、彼女を追っていた。


「被験体エイゼ、逃亡を許すな! 直ちに制圧せよ!」


「……鬱陶しい。」


エイゼは息を整え、背中のハクヤをよりしっかりと支えながら、目の前の敵を睨みつける。

冥土の白い支給服に身を包んだ兵士たちは、迷いなく銃を構えた。


「撃てッ!」


次の瞬間、銃声が鳴り響く。

しかし、エイゼはその場に留まることなく、一気に横へ跳び、壁を蹴って反転。

飛び交う弾丸を避けながら、鋭く剣を振るった。


シュン——!


「……がッ!!」


兵士の一人が喉を押さえ、鮮血が飛び散る。

だが、すぐに別の兵士が前に出て、素早く後退するエイゼを追った。


(時間がない。)


エイゼはちらりと背中のハクヤを見た。

彼の呼吸は安定しているが、完全に意識が戻るにはまだ時間がかかる。


「今はお前を外に出すことが最優先。」


エイゼは自身の中に眠る力を引き出すために、静かに目を閉じた。

次の瞬間——彼女の背中から巨大な翼が広がる。


「——ッ! グリフォン形態だ!」


兵士たちが驚愕の声を上げる間もなく、エイゼは一気に飛翔した。

狭い廊下の天井を蹴り、壁を使ってジグザグに動きながら敵を翻弄する。

そのまま兵士の一人を蹴り飛ばし、剣を振り下ろした。


「ぐぁっ……!」


銃を構える間もなく、次々と兵士たちが倒れていく。

しかし、敵の数は圧倒的に多く、無限に湧いてくるかのようだった。


(このままじゃ、いずれ包囲される。)


エイゼは歯を食いしばりながら、通路の先にある非常口を目指す。

そこが唯一の脱出経路だ。

だが——


「封鎖しろ! 逃がすな!」


すでにそのルートにも兵士たちが待ち構えていた。

後方からも敵が迫り、完全に挟み撃ちの状態だった。


「……フン。」


エイゼは迷うことなく、床に降り立った。

その場にいる兵士たちを見回し、剣をしっかりと握る。


「まとめて片付けてやる。」


その瞬間、彼女の体が一気に加速した。

風を切るように動き、敵の攻撃をかわしながら、的確に急所を狙う。


「終わりだ。」


最後の一人を切り伏せると、エイゼは素早く扉を開き、外へと飛び出した。

外は冷たい夜風が吹き荒れ、薄暗い森が広がっている。


(ここまで来れば——)


だが、その安堵も束の間だった。


——ドォォン!!


突如として、爆発音が轟く。

施設の上空に巨大な黒い影が現れた。


「……ッ!」


それは、冥土が誇る強襲用の飛行船だった。

上空からは無数の兵士たちが降下し、森を包囲するように展開していく。


「……しつこいな。」


エイゼはため息をつき、背中のハクヤを抱え直した。

彼の意識はまだ戻らない。


(仕方ない……。)


エイゼは決断する。

このままでは、二人とも捕まる可能性が高い。


(私が囮になるしかない。)


ハクヤを安全な場所に逃がし、自分が敵を引きつける。

それが、現状で最も確実な方法だった。


「……ハクヤ、お前は生きろ。」


エイゼは優しくそう呟き、森の奥へと走り出した。

夜の闇の中、彼女は全速力で駆け、隠れられる場所を探す。


やがて、小さな洞窟を見つけると、そっとハクヤを寝かせた。


「そして……自由になれ。」


そう言い残し、エイゼはその場を後にした。

兵士たちの視線を引きつけるように、あえて音を立て、別方向へと走る。


「いたぞ! 追え!」


敵が彼女の方へと向かうのを確認し、エイゼは僅かに微笑む。

そのまま、彼女は森の奥へと消えていった——。


翌朝。


「……ッ、くそ……。」


ハクヤが目を覚ました時、すでにエイゼの姿はなかった。

彼の横には、彼女の剣が置かれていた。

その刃には、彼女の意志が込められているように感じられた。


ハクヤは拳を握りしめた。


「エイゼ……。」


彼女がここにいないということは——

捕まった、ということだ。


ハクヤは深く息を吸い、立ち上がった。

これ以上、迷っている暇はない。

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