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焔翼のグリフォン  作者: いねの
第一部 旅立ちと決意 第1章 冥土を背に
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壊された鎖

 瓦礫と硝煙の残る廃墟の中、闇を裂くように一人の男が現れた。


白衣を纏い、目元に刻まれた深い皺。その瞳は人間ではない何かを見ているようだった。


彼の名は――リンドウ。

冥土の創成期からすべてを見届けてきた科学者であり、アビス、エイゼ、そしてハクヤまでも数々の生体兵器の“製作者”である。


「……ようやく、ここまで辿り着いたか。検体ナンバー003(アビス)、そして……006(エイゼ)。」


 静かに告げられたその声に、アビスとエイゼの体がこわばった。


「……リンドウ……! なぜ、お前が……!」


アビスが叫ぶ。しかし彼の身体は、限界を超えていた。

喉元に拘束具――“検体ナンバー003”の刻印が刻まれた首輪が、神経と筋肉を束縛し続けていた。


「懐かしいな、アビス。いや……今はその名も不要か。キマイラ計画の最高成功体、003。まさか自我を保って反逆するとは。」


リンドウは薄笑いを浮かべ、掌に握っていた遠隔制御装置を軽く掲げる。


「やめろ!!」


ハクヤが剣を構えたが、数体の無人兵装と生体兵器が彼の前に立ちはだかる。


「……見せてやるよ。“躾”とは何かをな。」


リンドウがスイッチを押す。


アビスの体が激しく痙攣する。


「ぐっ……ああああッ!!」


神経へ直接送り込まれる電気信号。脳が悲鳴を上げ、全身の自由が奪われていく。

地面に膝をついたアビスは、顔を歪め、血の涙を流すような苦悶の表情を浮かべていた。


「やめろ!!」


エイゼが走り出した。彼女の瞳に宿る怒りと悲しみが、冷たい鎧を引き裂く。


彼女はアビスの背後に回り込むと、拘束具に両手をかけた。


「エイゼ……離れて……これは……!」


「放っておけるか!」


彼女は変化させた鉤爪で、怒りのこもった力で、首輪を握りしめる。


「お前が……お前自身として、生きろ!!」


 その瞬間、金属が軋む音と共に、拘束具が破断を始めた。


「やめろ!それは強化鋼だ!人体ごと……!」


リンドウが叫ぶが、遅かった。


ガキィン――ッ!!


首輪が、エイゼの力で真っ二つに裂かれた。


破片が宙に散り、アビスの体から力が抜ける。だがそれは、束縛から解き放たれた証でもあった。


「……あ……。」


アビスは震える手で、自分の喉に触れた。


「自由……だ……。」


その呟きに、エイゼは静かに頷いた。


「ようやく……本当の『あなた』に戻れたな。……アビス。」


 そこへ、リンドウが再び装置を掲げ――だが、ふと手を止める。


 彼はゆっくりと一歩、後退した。


「……面白い。」


「……何が面白いって言うんだ。」


 ハクヤが怒気を込めて睨みつけるが、リンドウは苦笑した。


「人間の感情とは、こうも予測不可能なのか。お前たちは本来、全員が廃棄対象だった。“失敗作”のはずだったんだ。003(アビス)も、006(エイゼ)も。」


リンドウは遠くの闇を見つめるように、視線を外す。


「だが……その“不完全さ”こそが、美しい。」


リンドウの背後で、遠隔制御の生体兵器が一体、また一体と自壊を始める。まるで命令が途絶えたかのように。


「なんだと……?」


ガルツが驚いた声を上げる。


リンドウは小さく肩をすくめた。


「今回の実験データは十分に得られた。003(アビス)の独立行動、006(エイゼ)の異常進化、そしてグリフォンの継承者……。」


風が吹く。白衣がなびく。


「私はしばらく姿を消す。次に会う時は、神を模す者……いや、観測者として、また別の立場で会おう。」


「……待て、逃げる気か!」


 ザハークが身構えるが、リンドウはすでに煙幕弾を投げていた。


次の瞬間――視界が煙に包まれる。


「リンドウ!!」


ハクヤが叫び、煙を裂いて駆けるが、男の姿はどこにもなかった。


残されたのは、アビスの足元に転がった、破壊された首輪の残骸と、焼け落ちた遠隔装置の破片。

 

エイゼがアビスに手を差し伸べる。


「……立てるか?」


アビスはその手を見つめ、苦笑した。


「キミがいてくれれば、どこへでも。」


ハクヤはそれを見て、小さく頷いた。


「仲間になるってんなら、責任取ってもらうからな。」


「当然だよ、ハクヤくん。」


アビスは微笑みながら静かに立ち上がる。


それは、かつて冥土の狩人だった男が、初めて“人”として歩き出した瞬間だった。

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