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No Title  作者: 神衣舞
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2

 女の名前はルフェルナ。

 アーティファクト研究室の主任だと言う。

 彼女が身に着けている宝珠は魔力の探知機になっている、魔力反応の塊である彼女に気付くのは必然だろう。


「で、だ。お前はアレの毒牙にかかった口か?」


 一瞬でも想像して怖気が走った。その顔を見て彼女は楽しそうに笑う。


「そうか。お前とは仲良くなれそうだ」


 そんな会話を交わし、連れて行かれた先は彼女の研究室。

 当然魔術師ギルド内。

 入口には門番がおり、簡単なチェックを義務付けているらしいのだが彼女は顔パスで通る。

 一瞬ためらい、続くティアも特に何も言われなかった。


「しかし、その指輪を持っているということは、何かしらかかわりがあるのだろう。まぁ、それはいい。そんな君があんなところでなにをしていた?」


 尋問とでも言わんばかりの問い。


「400年ほど前に三国境界付近にあったという国について調べに来たのじゃ」


 隠し事をする必要性はない。

 隠すだけの理由も意味もなく、何か聞きだせるのであればそれだけでラッキーと判断して率直に回答。


「ずいぶんと偉そうな言葉使いだな」


 だが返ってきた言葉はまずそれだった。


「まるでスティアロウのようだ」


 聞きなれない───思考がゆがむ。

 スティアロウ、『星の法』という名。言葉が流れ込み、意識が踊る。


「君が調べようとしている国、その最後の三姫の名だよ。

 人に姿を見せず、常にフードを目深にかぶり、小柄な体から漏れ出すは老女のような奇怪な声。

 君の場合は声でなく言葉だけど」


 喋りながら紅茶を出す。

 からからに乾いた喉に、火傷しない程度に流し込んだ。


「あの国を知るヤツなんてこのギルドにも10人に満たない。どうして君は知っている?」

「わからぬ」


 堂々と言い放って、女の反応を見る。

 女は気にした様子もなく香りを楽しむ風にカップを持ち上げていた。


「では、質問を変えよう。君はその国の何を調べたい?」

「しいて言えばわしの手がかりじゃ」

「手掛かり? 400年も前に滅びた王国にか?」


 常人ならば視線を湯気越しにつきつけ「いや、君は奇天烈だが、頭は悪くないようだ、古い王家を持ち出そうという不貞の輩には見えないな」と自己完結。


「全てはわからぬ。わしは記憶がないでの」


 話せる人間だと見たティアは自分の身上を語り始めた。



「記憶には数種類ある」


 話を聞き終わった女は言う。


「瞬間的に物を覚えるもの、思い出として長期に渉り覚えるもの。

 極端な例では反射も記憶といえよう」


 その当たりはさっぱりのティアは聞くしかない。


「長期に覚える記憶でも2種類存在する。

 付与魔術課の連中はそれを「辞書記憶」と「回想記憶」と呼んでいる。

 字面の通り、辞書記憶は辞書を引く高位と同じで雨ならば空から降ってくる水、海ならばしょっぱくて大きな水溜りとなる。

 一方の回想記憶で雨を思い出せば冬に雨に打たれて冷たかったとか、どこそこの海はこんなに青くてきれいだったとなる。

 主にフォーゲットの魔法はその回想記憶を一部除去する魔法であり、ブレインシェーカーは辞書記憶を混乱させて行動を起こせなくする魔法だ」


 言って「これはまだ開発中の魔法だったな。忘れてくれ」と悪びれずに言う。


「お前があるものに対して連鎖的に知識が出てくるのは回想記憶だけに障害があり、辞書記憶が健在だからだろう。

 だが、目覚めてからの日々を明確に覚えているというならば、それまでの回想記憶を消去、またはプロテクトしたということになる」

「つまり、わしの頭の辞書に登録されている、つまりは以前親しんだことのあるものに違いはないと?」

「もちろん失わせる魔法があれば付け加える魔法もあるがな」

 なかなかに辛辣な注釈に苦笑いを浮かべる。

「しかし、大変興味深い。

 場所、状況、植えつけられたとしてもその一致はもはや偶然とは言いがたい。

 ティアロット、『嘆きの杖』の名を持つ娘か。面白い」


「知っているか?」と彼女は言う。


「杖は統治と法の象徴。そして星は『流れる』ものだ」


 ……何をいわんとしたかを察してティアは噤む。


「かの国についてあらゆる記述は仕組まれたように曖昧、唯一隠しえぬ戦いのみが史書に見られる」


 カップがかしゃりと音を立てる。


「私に協力しろ。そうすれば助手扱いで施設を使うことが出来る。

 それに最大の協力者にも引き合わせてやろう。

 お互いの協力関係はお互いの目的を達成するまで。どうだ?」


 確かに、場所がそこと特定されるのなら、遠いアイリンよりもルーンのほうがやりやすい。

 その上施設の使用まで許可してくれるというなら願ったり叶ったりというところだろう。

 それでも生まれた迷いを分析して、苦笑。


「気に入らないか? お前にとっても破格の条件だとおもうが?」


 勘違いした女が訝しげに言う。

 探りを入れるように、目を細め。


「いや……悪ぅない条件じゃ。飲もう」


 ティアロット───『自分ではない自分』の思いを飲み込み、少女は応じた。



 最大の協力者とは、その国について調べ続けている一人の賢者だと言う。

 連れられ来た森の中。ふと懐かしい感じに囚われ、訝しがり。

 そして────



「なんだ? 知り合いか?」


 後から入った女がタバコをくゆらせ二人を交互に見る。

 その狩小屋の主は、トンとパイプの灰を捨てると、大きく紫煙を吐いた。


「久しいのぉ、お嬢ちゃんや」


 それは、遺跡を抜け出したティアロットが、最初に出会った老人だった。

 どこまでの運命が仕組まれているのか。

 ティアロットと名乗る少女は苦笑を浮かべるしかなかった。

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