エンミが憎い……
近頃すごくエンミが憎い。
なんっうのかなぁ。
エビデンスという単語が、世の中を席巻し始めた時に似た感覚と言ったら分かってもらえるだろうか。
「お前の言う『エビデンス』は、『証拠』なのか『論拠』なのか『査読付き文献』なのか『議事録・覚書』なのか『個人メモ』なのか『医学的臨床結果』なのか、ハッキリせい!」
というヤツですね。
ふわっとエビデンスなんて曖昧語で濁してんじゃねえよ、という感覚。
(あ! 各専門分野で、専門用語として使われているevidenceという単語の多様性に文句を付ける気はありません。証拠なら証拠、議事録なら議事録、医学論文なら医学論文とハッキリ使い分けが明確化されてる場合には問題ありませんから)
だからエンミという単語も、分析機器を研究している人や栄養学を研究している人が使う場合は全然気にならない。
塩分濃度もしくは塩化ナトリウム濃度と、ハッキリ使用範囲が分かりますからね。
……ああ、ごめんなさい。逆上のあまり、我を忘れてしまいました。
これだと話が通じませんね。反省。
「エンミ」と憎く思っているのは、漢字表記すれば「塩味」。
これまで一般会話の中では「しおあじ」「しょっぱさ」「しおからさ」などという単語で使われていた味覚です。
それがさあ、近頃バラエティの食レポで
「よいエンミを感じます」
とか
「エンミが効いてますねぇ」
なんて使われ方をするじゃないですか。
しかも、その塩分濃度の程度が、観ている方には全く伝わらないモヤッとした使われ方で。
エンミを感じるって、生理的食塩水レベル(0.9%)のことなの?
エンミが効いてるって、海水レベル(3.5%)のことなの?
サッパリ伝わらねエ!
せめて焼いた塩サンマくらいの塩っぱさなのか、生サンマに薄っすら尺塩して焼いたくらいの塩加減なのか、共感可能な例示を上げて教えてくれよぅ。
スープ(汁)系なら、関西の駅うどんくらいなのか、関東の駅そばくらいのシオアジなのか!
なんと申しますか……食レポ番組の中で、甘味のことを「かんみ」、苦味のことを「くみ」って言っているのを聞いたことが無いのに、なんでシオアジ・シオミだけは「えんみ」なの?
以前、俳優の菅原文太氏が出ていた対談番組(たぶん再放送)を観た記憶があって、その中で氏は好きな食べ物について問われ
「塩の効いたシャケが好きです。ちょこっと齧っただけで、こう……口がひん曲がるくらい辛い」
みたいな風に答えておられた。
うむ。表面に塩が粉噴いているような硬い塩鮭の塩辛さのリアルが、視聴者に舌先の実感として伝わる返答というか形容ですよね。
そのリアルを伝える腕(技量)が無いから、近頃の若手レポーターは顔芸とエンミという定義不明の単語とで適当にお茶を濁しているんじゃないのか?
もしかすると僕の知らないところで「ギャル語」とか「若者言葉」みたいに、実は共通認識が成立しているのかも知れないけれど、だったらそれを僕みたいに無知蒙昧・時代遅れの人間にも周知徹底する努力をして欲しいんですよ。
脱イオン水1,000mlに対し塩化ナトリウム3.75gを溶解させた塩辛さを「エンミが効いてる」と称する、とか。
だったら学習して、自己感覚として納得させますわ。
だから具体的に教えて欲しい!
それとな、話題がブレて余談という事になってしまうけど、もののついで・行きがけの駄賃だ。エビを食べたときに何でも「ぷりぷり~」と言うのも止めて頂きたい。
活きのクルマエビ・クマエビ系の、プツンプツンとした潔い歯応えが身上の「ぷりぷり」
アマエビ・ボタンエビ系の、とろりとした舌ざわりが優しい「ぷりぷり」
ボイルしたり揚げたりした加熱済ブラックタイガー系の、むちむち・ぷつぷつ・しこしこした「ぷりぷり」
これらを全部「ぷりぷり~」の一言で片づけるなよ、ってことです。
咀嚼したエビの身から出てくる甘味や鼻に抜ける香りだって、全部違っているだろ、オイ!
加えて、だ。
刺身食ったときの、なんでも「あまーい」も、どうにかならんか。
マグロのトロ食ったときの脂の「あまい」と、白身魚のアミノ酸系の「あまい」は全然別モノじゃないか。そもそもケンサキイカの刺身なら、白身魚以上に脂を含んでいないわけだしィィ!
……ハア、ハア。申し訳ない。怒りの余り脱線が過ぎました。
ええ、と。つまり、だ。この乱筆に強引に落としどころを着けるとするなら――
「エンミ」という単語、使うなとは言わない(言えない)けれど、TPOを考えるか、もしくは定義を明確化してから使って欲しい。
以上、市井の一凡夫からの、心からのお願いであります。
たのんまっせ、ほんま……
おしまい
お読みいただき有難うございました。
このエッセイは、藤谷K介(武 頼庵)さま作の
「聞き慣れた言葉だけれど個人的には違和感があるというか、当り前の言葉として使うのってどうなの? と思う時がある」 N7956JO
という面白傑作エッセイに感化されて作成したものです。
拙は、藤谷K介さまとは今まで交流したことが無かったのですが、氏の上記作品に激ハマリして「インスパイア・エッセイを一本書いてみたいのですが」と感想欄にお送りさせて頂いたところ、快く許可していただきました。
藤谷さまの上記エッセイは、主に「Z世代」という言葉に対するユーモアに満ちた考察で、拙作のごとく呪詛と罵詈雑言に満ち満ちた乱暴な内容ではありません。
拙作の「エンミが憎い……」に関する文責は、全て私「みなみおうお」が負うものであり、藤谷さまの関知しないところであります。
ですから不満・反論・異議申し立て・罵詈雑言をお持ちになられた方は、全て私めの方へお送りいただきますよう宜しくお願い申し上げます。
みなみのうお 拝