これが、愛情が残っていた家族の形か
リヒトからの質問に、クティが答えようと口を開いた。
けど、何故か言葉が出ない様子だ。
鯉のように口をパクパクしている。
「クティさん。多分ですが、貴方は口で言っているほど、非道な人ではないように思います」
「な、何を言っているの? 貴方には何もわからないでしょう?」
「私も、言葉で説明は難しいです。貴方の言う通り、私は貴方を全く知らないので」
そりゃ、そうだろうな。
今さっき会ったばかりだし。
「そうでしょう? それなのなら、余計な口を挟まないでくれないかしら」
「私も、あまり余計なことをしたくはないです。怒られるので」
ん? おい、なんで俺をちらりと見た。
なんで「怒られるので」で、俺を見た、リヒトよ。
「ですが、これだけは伝えないといけないと思いまして」
「…………なによ」
「私、リーさんとスーさんと一緒に学校生活を送っていたんです。あまり関わりはなかったですが、少しはお話ししていました」
リヒトは後ろを見て、怯えている双子に視線を送った。
クティもつられるように双子を見る。
「お二人は、貴方を嫌いにはなっていないと思います。最後の最後まで、貴方を裏切るのに躊躇していましたから」
「それは、ただ私を畏れて……」
「それもあるかもしれません。ですが、スーさんとリーさんは、一度も貴方を嫌いだとは言っていません。行いを間違えているとは思っているようですが、嫌いとは言っていなかったです。それはつまり、少しの間でも、貴方がお二人に愛情を注いだからだと、私は思っています」
クティは「それは」と、また何かを言いかけたが、それをリヒトが遮る。
「少し、向き合っていただけませんか? 素の貴方と、素のスーさんとリーさんとで」
リヒトがニコッと微笑みかける。
その笑みに絆されたのか、クティは何も言わず口を閉ざす。
そんな中、スーとリーが覚悟を決めたように走り出した。
「お母さん」
「母さん」
スーとリーは、拘束している母親に抱き着き、涙を流した。
何度も何度も「お母さん」と呼んでいる。
これが、本当の二人なのかもしれない。
実力や、地位。そんな物より。二人はただ、甘えたかったのかもしれない。
「カガミヤさん。クティさんの拘束を解除していただいてもいいですか?」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だと思います。だって、クティさん。どこか、後悔しているような顔を浮かべていますので」
リヒトは、笑みを浮かべながらクティや二人を見る。
俺はまだ信じられないが、リヒトが言うのならと思って水の鞭を解いた。
両手が解放されたクティは、自分を抱きしめて来る子供達に手を伸ばす。
ギュッと自分へ引き寄せ、力強く抱きしめた。
「ごめん、なさい……」
涙を流している母親の姿。
双子も涙を流し、家族で慰め合う。
なるほど、本当に愛情はあったらしいな。
カスみたいな奴と思っていたが、少しはマシだったんだな。
「クティさんはただ、目的への想いが強すぎて迷子になっていただけだと思います」
「迷子?」
「はい」
ど、どういうこと?
「目的は、私達の進むべき道を示してくれます。けど、それが強すぎると、他の道が見えなくなってしまうのです。人生は枝分かれしており、一つの選択で無数の可能性が広がっています。その枝が見えなくなるほどに、目的が強すぎてしまったんだと思います」
「おいおい、お前いくつだ? なに俺より大人な発言してんだよ」
「え、そうですか?」
そこまで考えられる子供なんてそんないないぞ。
…………まぁ、こいつも色々と見てきて、学んで、そう思うようになったんだろうなぁ。
首を傾げているこいつは、無自覚なんだろうけど。
「ひとまず、今回はここに落ちた。もう、俺達はいいだろう」
「そうですね。でも、学校……」
「あぁ……」
みんなで学校の建物を見るけど、もうそりゃ、酷いことになっている。
一言でいえば、廃校舎。あれを復旧は無理じゃないか?
「あの、一つ聞いてもよろしいでしょうか?」
「は、はい。はい? え、なんですか?」
理事長が俺に声をかけてきた。
そう言えば、改めて話すのは初めてかもしれない。
「貴方は、何者ですか?」
「ただの冒険者ですが?」
「ただの、ではありませんよね。魔力が桁違いです」
「今は減っていますが?」
「それでも、わかりますよ。貴方が普通ではないことくらい」
おい、それはどういう意味だ。
罵倒の方ではないよな?
俺は、普通の人間だぞ。少し、他の人より魔力が多いだけの。
「まぁ、いいでしょう。今は地下の方が心配です」
言いながら、ふらつく体を無理やり動かし地下へと行こうとしている。
なんか、痛々しい。
おばあちゃんが無理したら、すぐにぽっくり逝っちまうんじゃないか?
「なぁ、理事長。俺が運んでいくぞ!!」
アルカが何も考えずに理事長に声をかけやがった。
純粋な笑顔、優しいなぁ。
「結構です。私は貴方のような子供に頼らなくても一人で大丈夫です」
「えー」
…………なんでやねん。
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