偽物
アマリアの音魔法は、周りに漂う酸のイルカを破壊した。
瞬間、音魔法が止む。
「さてと、状況整理させてもらおうか」
ソフィアは、アマリアを横目で見る。
その視線でアマリアは肩を落とし、気まずそうに頬をポリポリと掻いた。
「正直、僕もわからないんだよね。理事長に、ここを守ってほしいと言われただけだから」
「その理事長は、どこにいる?」
「どこか行った」
「……もう少し、なにかないのか」
ソフィアはアマリアの簡潔な説明に呆れて、頭を抱える。
そんな二人の話がまとまるのをロゼ姫は待ってはくれない。
右手に持っている杖を抱え上げた。
魔法が来る、瞬時に察したアマリアとソフィアは身構えた。
『――――acid』
感情がない、淡々とした口調で魔法を唱える。
すると、酸で作られた大きな水の玉が作られた。
「ヴィブラシオっ――えっ」
すぐにソフィアは耳を塞ぐ。
だが、アマリアの魔法は最後まで続かなかった。
酸魔法が音魔法が放たれる前にアマリアの手首に巻きついた。
ジュワッと音がなり、血が滴り落ちる。
すぐに弾こうとするも、反対側の手も焼けてしまい、触れられない。
ソフィアが拳銃で酸の玉を強く殴った。
やっとアマリアから離れたが、もう手遅れだった。
――――ボトッ
「……ほう、早いな」
「僕の腕がなくなったのに、冷静なの腹立つ」
手首からしたの手が地面に落ちてしまった。
血が滴り落ち、地面を赤く染める。
すぐに、白衣の袖をちぎり、結び止血をした。
「次が来るぞ」
「こっちは、片腕なくなったのに……」
悲しそうな声を漏らすアマリアの視界に、氷柱が降る。
「あぁ、やっと。正気に戻ったみたい」
「そうか」
二人の視線が出入り口へと注がれる。
そこには、剣を構えロゼ姫を見ているグレールの姿があった。
「おい、ロゼ姫の人形。さっさと死ね」
『…………』
グレールの口から出た言葉とは思えず、アマリアは思わず瞬きをする。
ソフィアは、「へぇ」とロゼ姫を見直し、拳銃を下ろした。
空中に漂う酸の玉は、グレールを狙うように動き出す。
自身に敵意がある相手を無差別に襲っているらしい。
自分の方へと意識が向いたことを好機と思い地面を蹴った。
グレールは、酸魔法をすべて避けながら駆けだした。
ロゼ姫は、表情一つ変えずにグレールへと酸魔法を放ち続ける。
「貴方はロゼ姫ではない。ロゼ姫はそんなではない。ロゼ姫を侮辱した罪を、償いなさい」
遠慮なく、グレールは全ての酸魔法を避け、ロゼ姫を一刀両断した。
「やはり、敵に回すもんじゃないな」
「今は絶対に、そんなことを言っている場合じゃないと思うよ」
この場にいるほとんどの人がマイペースで、アマリアは一人、飽きれていた。
「というか、本人じゃなかったんだね」
「魔力、動き、癖。すべてロゼ姫でした。ですが、本人ではありませんよ。ロゼ姫は、アマリア様の腕を溶かすような人ではありませんから」
「操られていた可能性は……」
「そんなことになる訳がありません。ロゼ姫を侮辱するのなら、いくらアマリア様でも許しませんよ」
「…………はい」
アマリアに鋭い視線を送り、グレールは剣を消す。
氷のように冷たい視線を受けたアマリアは、身震いしながら視線を逸らす。
顔を逸らしつつも、アマリアは「侮辱はしていない」と、心の中で呟いた。
興奮状態のグレールに何を言っても意味は無いとのはアマリア自身わかっている為、これ以上は何も言わない。
それより、自身の腕をどうしようと見る。
「…………すいません、取り乱しました。大丈夫ですか。腕」
「問題ないと言えばうそになるね。痛みはないけど、流石に体は人間。不便になるし、血が流れ続けると死んじゃうかも」
心配してくるグレールを見て、アマリアが続けた。
「ただ、僕の場合は、さっきも言った通り、痛みを感じないの。だから、血が少なくなってきても体力の限界に気づかない恐れがある。いきなり死んだらごめんね」
「それは許しませんよ。とりあえず――……」
グレールはアマリアの傷口に手を添えた。
すると、冷気が放たれ傷口が凍る。
「これで、大丈夫かはわかりませんが、とりあえず。早くここから出た方がいいのには変わりませんので、動きましょう」
取り乱してはいるものの、グレールは冷静に立ちあがる。
ソフィアとアンキ、アマリアもグレールに従い周りを見た。
「ここが、学校を作り出しているとさっき言っていたな。あれは、この学校自体が魔力で生成されているということか?」
「近いようなことを理事長は言っていたよ。でも、詳しくは聞けてないんだよね。それに、その理事長はどこへ行ったのやら」
腕を抑えながら、アマリアは上を向く。
「そういえば、チサト様はどちらへ? 一緒ではなかったのですか?」
「いち早く地上へと戻っているはずだよ。会わなかったの?」
「……そうですか」
なにかバツが悪そうに顔を背けるグレールに、アマリアはなんとなく察した。
「…………へぇ、一人で動いたんだ」
「ロゼ姫が攫われたのです、当然でしょう」
「え、攫われた??」
アマリアは、地上で怒っていた出来事を知らない。
言い訳をしていたグレールの言葉に、思わず目を見開いた。
「そうなのです。いきなり黒い霧が現れ、ロゼ姫をさらったのです。すぐに追いかけてしまったので、チサト様とは合流出来ませんでした」
「ソフィアとアンキは、そんなグレールを追いかけたのかな」
二人は呆れたように頷いた。
そんな三人アマリアは、どう声をかけていいのか悩み、深い溜息を吐いた。
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