光と闇とはまさにこのことだな
「根本と言っても、病気はリヒトの魔法で治せるのか?」
「いえ。私が治せるのは外傷だけで、病気は治せないです」
「これで根本をどうにかする方法は無くなったな、なむさん」
「考えろよ!!!!」
うっ……。
おいおい、耳元で大きな声出すなよ。
「人酔いでグロッキーな俺に、それを言う?」
「今はだいぶ回復しただろ」
「…………おえー」
「嘘つくな」
流石に諦めねぇか、ちっ。
俺は医者じゃないんだから、どうすることも出来ないって……。
「そもそも、どんな病気なのか、どのように発症したのか、今の医療技術で治せるのか。わからんことばかりだ。そんな中で素人である俺達が何かしたところで無駄。変に期待させるのも残酷だろう」
これで諦めろ、さすがに無理だ。
「でも……、でもよぉ!!」
……はぁ、一度やると言ったら何を言っても聞かない奴らだったな、そういや。
行動した方が早いかもしれねぇし、何か考えるか。
「はぁ…………。おい、餓鬼。早く終わらせるため、お前の母親に会わせろ。どうせ、何も出来ないだろうから期待はするな」
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餓鬼は、裏路地を歩み進む。
行きたくない、俺は行きたくないぞ。
両足に錘が付いているように重たい。
「カガミヤさん、めんどくさいのはわかりますが、もっと早く歩けないですか? 遅すぎです」
「仕方がないだろ。俺の両足に錘が付いているのだから」
「まったくもう…………」
いや、ため息吐きたいのは俺なんだけど。なんで呆れられてんの?
人助けをするのが当たり前だと思うな、人間なんて人を見捨てる生き物だぞ。
見た目だけよく見せている奴なんてよくいる、善人なんて幻想だ。
…………ここに居たか、善人二人。
あ、餓鬼が不安げに俺の方をチラチラと見てくる。
「大丈夫だ、案内をつづけてくれ」
「う、うん……」
大丈夫だとは言うけど、あまり、親と仲のいい家族と関わりたくないなぁ。
「…………」
親を大事にする子供、子供を大事にする親。
そんなのが当たり前なんて、誰が決めたんだ。
そんなのは当たり前ではない、誰でも無条件で愛される訳ではない。
人は、自分の利益のために人を切り捨てる生き物だ。
それが例え、自分の子供だったとしても──……
あぁ、胸が痛い、息苦しい。
まさか、ここまで過去に影響されるなんて、俺も弱いな。強くなる気はないけど。
…………強くなる気はない、けど。
早く、忘れてしまいたい。家族というものを。
「はぁ……っ…………」
「カガミヤさん? 胸抑えて……痛いんですか?」
「え、大丈夫か? もしかして、渋っていたのは体の調子が悪いからだったのか?」
二人が立ち止まった事で、餓鬼も立ち止まる。
「……なんでもない。早く終わらせて明日に備えるぞ。どうせ、診たところで何も出来ねぇだろうし、すぐに終わるだろ」
重い足取りのまま、立ち止まっている二人の間を通り餓鬼の近くまで歩く。
「さっさと案内しろ」
餓鬼の背中を押すと、不安そうな表情を浮かべながらも歩き出した。
※
餓鬼の家は、メイン通路から離れた街外れの古い木製の建物だった。
「こんな所で生活しているの?」
「うん。ここは、治らない病にかかった人が送られる”墓地送り”と呼ばれている場所なんだ。どうせ治らず、墓地に送られるからという意味みたい」
「酷い…………」
墓地送り…………か。
周りには、餓鬼の家以外にも建物はある。
人の通りもちらほら。つまり、病にかかった人はこの餓鬼の親だけではない。
このような場所が準備されているっつーことは、感染病や流行病の可能性があるな。
隔離状態って、感じだろうな。
「中にお母さんがいるの」
餓鬼が言うと、ドアが軋む音と共に二人が中に入って行く。
「こっちに。お母さん、大丈夫?」
部屋の中、掃除が行き届いてないな。ホコリが舞っているし、ちゃぶ台の上には散乱している食器。床には、洗濯すらされていない衣類が散らばっていた。
そんなリビングの奥には、もう一つ部屋があるみたい。
移動している途中、リビングの端にキッチンがあった。
横目で見てみると、残骸が散らばって、腐っている。頑張って作ろうとして、失敗したんだろうな。
「……」
餓鬼は見たところ、小学生くらい。
三、四年くらいだろうか。それで調理をしようと頑張ったのか、そこはえらいな。
「カガミヤさん、こっちにお願いできますか?」
「…………あぁ、今行く」
リヒトに呼ばれちまった。
まだ気になる点はあるが、ひとまず行くか。
奥はおそらく寝室。中央には、一人の女性が布団に横になっていた。
その奥には、男性が映っている遺影。本当に父親は死んでいるらしい。
「お客様、かい? ごめんなさいね、こんな姿で」
「気にしないでください。こちらが勝手に来ただけですから」
リヒトが布団の隣に座り、アルカも腰を下ろした。
俺も二人の後ろに座り、女性を見る。
こけた頬に細い首。髪もぼさぼさで、栄養が足りていないのは一目でわかる。
これは、重い病だな。
癌だったら本当に何も出来ないぞ、名医とかでも難しそう。
…………ん? 女の隣に薬と一緒に置かれているのは、診断書か?
「あ、カガミヤさん、勝手に…………」
薬の近くにあった紙を拾い上げ見てみると、予想通り。診断書だ。
…………ほぅ。なるほどな、これならワンチャンいけそう。
つーか、ギルドに依頼されてそうだけど、これ。
「カガミヤ?」
「…………アルカ、この街にもギルドはあるのか?」
「え、あると思うけど。何でいきなり?」
「そうか。なら、そこに行くぞ。女、この診断書は預かる。リヒトは二人を見ていろ。行くぞ、アルカ」
「ちょ、待てよカガミヤ!!」
何もわからない二人をよそに、建物から外に出る。後ろにはしっかりと、アルカが付いて来ていた。
「どうしたんだよカガミヤ、いきなりギルドなんて。今は護衛の依頼より、こっちの方が大変じゃねぇか」
「ギルドに行けば何か手がかりがありそうなんだよ。まぁ、なかったらなかったでお手上げだけどな」
「どういう事だ?」
アルカに診断書を渡すが、内容を読んでも頭をひねるだけ。分からないか……。
「診断書には、原因不明と書かれている。その理由が体に異常がないから。あんなに弱っているのに体への影響がないのは明らかにおかしい。俺が元居た世界なら病院を転々とするしかないが、こっちの世界ならワンチャン魔法やモンスターが関係あるかもしれないと思ったんだ。そういうのに強いのは、確実にギルドだろ」
まぁ、本当にワンチャン。賭けだ。
「そうかもしれないが、急ぎ過ぎじゃないか?」
「確かにな。俺も思うよ」
「だったら、なんで…………」
「女の命はもう長くないように見えた。可能性が外れた時、また俺達以外に頼まねぇとならないだろ。時間は少しでも短縮した方がいい」
無駄に金を貸すのも嫌だしな。
俺達が今の段階で出来る事をやれば、憶測が間違えていたとしても、選択肢が減って正解には近づく。
病を発症させることはできて、治せないは確実にない。
現代でも、時間があれば薬が開発され、感染症などを落ち着かせられる。
少しでも原因が分かれば、薬とかに得意な奴にぶん投げればいいし、急ぐに越したことはないだろう。
「なぁ、カガミヤ」
「なんだ?」
「今回渋っている理由って、金が絡んでいない、だけが理由じゃないだろ。他にどんな理由があるんだ?」
「…………は?」
なに言ってんだこいつ。
「カガミヤの過去を、少し聞いた。そこ過去が、カガミヤを苦しませているじゃないかって思ってる」
そういや、少し話したな。
覚えてたんだ、そこに驚きだ。
「俺じゃ、カガミヤを助けられないけど、少しは楽に出来るかもしれない。だから、気分がすぐれない理由が分かっているなら教えてくれ! 何でもやるからよ!!」
嘘、偽りのない純粋な、心からの言葉だ。
こんなにも嘘偽りがないなんてな。こいつらは本当に純粋なんだな。
あんな腐った村に居たのに染まる事はなく、自分を貫いてきた。
────過去にトラウマを抱えていない人なんて少ない。誰か彼かは、何かを抱えている。
それを乗り越えたか、乗り越えていないかで今後の生活が決まる。
俺は乗り越えなかった側、こいつらは乗り越えた側の人間。
俺とは違うに、決まっているか。
「なぁ、返事してくれよカガミヤ」
「あぁ、はいはい。そのうちな」
「おう!!」
頭を撫でるとご機嫌になった。
そういう所は餓鬼なんだよな、リヒトと同じ。まぁ、まだ十九だしな。
……………………いや、十九って結構気難しい性格してない?
ここまで純粋はありえないだろ。この世界の冒険者、こわっ。
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