迷いは捨てろ
学校の授業には、だいぶ慣れてきた。
人と話せないのは正直辛いし、精神的に辛い所があるけどね……。
けれど、部屋に戻ればエトワールさんがいるし、スーさんとリーさんも時々遊びに来てくれる。
学校で疲れているだろうからと、普段は他愛無い話をしていた。
けれど、今は話なんてしていられない事態に陥ってしまっていた。
「まさか、実技試験があるなんてねぇ~。しかも月に一回。私は余裕だけれど、リヒトちゃんは厳しいねぇ~」
「う~……」
そう、一か月に一回、クラスごとに模擬戦を行うという実技試験がある。
そして、最下位となってしまった生徒は、退学。
「どうすればいいんですかぁぁぁああ!!」
「泣かれてもねぇ~。さすがに細工は通用しないだろうし。賭けでやるにはリスクが高すぎる」
エトワールさんがここまで警戒する理由。それは、今回なぜか、理事長であるクイーン様が見に来るからだ。
理事長は、この学校の中では一番、二番を争う程の魔法の使い手。
魔法学校を統べるほどの強者。さすがに、細工は通用しない、か。
「まだ、攻撃魔法に使えないの? 貴方の水魔法」
「acquaですよね。正直、これは攻撃魔法には向かないかと思います。カガミヤさんも、攻撃には炎魔法を主に使っておりますし。acquaは、どっちかというと、トラップみたいな使い方をしていたはずです」
「なるほど~。他の攻撃魔法があるならそうよねぇ~。炎魔法は、属性的にも攻撃特化型だし」
エトワールさんが顎に手を当てて考え込んでしまった。
こんなに迷惑をかけてしまうなんて、本当に情けない。
諦めるつもりは毛頭ないけれど、やっぱり地震は無くなってしまう。
私、本当に強くなれるのだろうか。
カガミヤさんやアルカの役に立てるくらいに強く、なれるのだろうか。
「――――トラップで殺すしかないかもしれないね」
「トラップで、殺す?」
「そうよ。なにも、攻撃魔法で相手を追い込めないといけない訳じゃないの。サポート役には、サポート役のやり方があるわ。けれど、それがリヒトちゃんに出来るかどうかはわからない」
「ど、どんなことですか?」
なにか、可能性があるのならチャレンジしてみたい。
顔を寄せ聞いてみると、エトワールさんが答えてくれた。
「溺れさせるのよ。そうすれば、相手は降参する。死にたくなければね」
「溺れ、させる」
そう言えば、カガミヤさんもacquaで脅している時に、やっていた気がする。
相手の顔にacquaを向けて放ち、息をさせない。
確かに、トラップと言えばトラップ。
だけれど……。
「仮に、相手が降参しなかったらどうすれば……」
「相手が酸欠になるまで貴方がacquaで拘束するのよ。当然でしょ?」
「…………苦しませないと、いけないんですね……」
一発で気絶させることが出来ればいいんだけど、私には無理。
でも、そんな苦しい思いはしてほしくない。
だって、模擬戦相手は、話したことはないけれど私と同じで、本気で魔法使いを目指している仲間。
敵対するのすら嫌なのに、こんな苦しい思いをさせないといけないなんて……。
「――――リヒトちゃん」
「は、はい!」
あっ、なんか、エトワールさんが真面目な顔を浮かべて私を見ている。
な、なんだろう。
「甘い考えは捨てなさい。そんな気持ちを持っている貴方では、知里さんを助けられないわよ」
「っ!」
エトワールさんから鋭い視線が送られる。
身体が強張り、一瞬硬直してしまった。
「役に立ちたいと本気で思うのなら、捨てるものは捨てなさい。すべてを守りながら前に進むなんて、そんな生ぬるい考えは身を滅ぼし、最悪死ぬわよ」
「…………わ、わかりました」
エトワールさんは、この世界を沢山生きている。
冒険者としても動いていたから、平らな道ではなかったのは絶対だ。
必ず壁はあったはず。
そんなエトワールさんからの言葉には、重みがある。
私が、甘いんだ。切り捨てることも考えないと。
授業でも言っていた。
魔法はイメージ。少しでも、迷いが生じればイメージできずに魔法が放てなくなる。
迷いは捨てろ、強い意思の元で動け。
絶対に、イメージを崩すな。
「わかったかしら?」
「わ、わかりました」
「では、今日はもう休みましょう。明日も普通に授業があるわ」
「はい……」
お互いに二段ベットへ横になり、エトワールさんが電気を消した。
明日も学校だから、早く寝ないと。体は疲れているし、寝ようと思えば寝れる。
そう思っていたのだけれど、なかなか睡魔が襲ってこない。
頭がさえてしまって、夢の中に入れない。
「…………甘えは、捨てろ」
じゃないと私は、魔法すら放てなくなってしまう。
私は、ここで強くならなければならないの。
絶対に、退学になるわけにはいかない。
カガミヤさんの役に立てるように、頑張らないと。
「強く、なるんだ」
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